合縁奇縁【WT】 (ページ21)

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薄氷戦を強いるページ21

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ーー彼女の悪い予感というのは十中八九当たる。

大規模侵攻は始まった。本部内に嫌なサイレンと沢村のアナウンスが入りスカートのポケットにしまっていたトリガーを握りしめたとき、確かに彼女はサイドエフェクトがぐるぐると働いた。
易々と勘で動いて迅がよく言う「良い未来」に動かせる保証がないことを彼女はなんとなく察したのだ。

『木虎が新型に捕まった』

無線の先の冷たい現実が彼女の頭をひどく縛りあげた。
彼女は器用だった。他県から来たというだけで彼女は三門市の惨劇を知らない。あの日何万人もの人間が地獄を見て、そして突然の終わりに置いてかれてしまっていたことを、彼女は薄いテレビの向こうで知った。雪の降る朝。どこかの遠い場所でSFみたいな現実が起こった。他人事のように知った話しか知らなかったのだ。

忍田にスカウトされ手を引かれるその日まで、彼女はその他何億人の内の1人の傍観者でしかなかった。だから彼女は三門市に来た時、まず自分という人間が気に入られることだけを考えていた。本部の人間に使える兵士だと、馴染めるよう戦えるようにと努力だけをひたすらやってきたのだ。

それでもまだ彼女は子供だった。
だからこそ、彼女らこの大規模侵攻のことをそう簡単に呑み込めるほど器用ではなかった。

何度も行った遠征で何回も見た。簡単に命が燃え尽きてしまうことも、その亡骸の上を歩かなきゃいけないことも。全て知っていても彼女はまだ受け止められていなかったのだ。

気持ちがいっぱいいっぱいになりながらわけも分からず移動していると突然無線が入った。

『Aちゃん聞こえる？』
「！宇佐美先輩」
『お、よかったよかった。今Aちゃんの方にレイジさんたちの座標と今のところわかってること説明するね』
「ありがとうございます」

無線越しの宇佐美が満足気に笑っているのが見なくてもわかった彼女は少し笑った。

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