【d!】As you wish【短編集】 (ページ13)

今日:23 hit、昨日:0 hit、合計:25,301 hit

愛しい人【nisn】ページ13

滅多に会えないけれど

――――――――――

私にはおつきあいをしている人がいる。彼は兄さんと言ってとても優しくかっこいい人だ。…自分には、釣り合わないくらいに。
そんなことを言ったら怒られるから言わないけど、私は彼にずっと劣等感を抱いている。仕事人間な彼は広い家に私を置いて世界を飛び回る。今回の出張はヨーロッパのどこかだったはず。

世界に、綺麗な人はたくさんいる。優しい人も、たくさん。

ぽろりと瞳から涙が零れた。最後にあったのは二か月前。メールの一つもない。今度こそ飽きられたのだと思っても仕方がないだろう、この状況は。
電気も付けず、カーテンも閉めずただ月明かりだけが差し込む部屋に蹲る。

「…にいさん」

掠れた声で呼んでみても彼は現れない。当たり前のことなのに傷ついてしまう自分に腹が立つ。膝を抱えて息を止める様に細く細く息を吐いた。声を出して泣いてしまいそうだったから、堪える様に。

「……まってるから、ちゃんと帰ってきてよね、」

ぴりりりり、と携帯が鳴った。びくりと大袈裟に肩を揺らし慌ててロックを解除した。通知を知らせる赤い丸が付いているメッセージアプリを開き目を通す。

「…馬鹿じゃないの？」

なんてタイミングのいいことか。送り主は愛しい兄さんからで、ホテルのベットに置かれた大量のお土産の写真が添付されていた。

『Aの好きな物、買った。明後日帰るから待っとってな』

そんなそっけない言葉に隠された愛情を確かに感じて、さっきとは違う意味で目頭が熱くなる。笑みを浮かべて私は立ちあがった。ぐっと伸びをして明かりをつける。

『美味しいもの作って待ってるね』

カーテンも閉めて、そう返信した。既読が付いて犬のスタンプが送られてくる。それに対抗するわけではないが猫のスタンプを返して携帯を閉じた。

まだ兄さんは帰って来てくれる。

それが分かるだけでこんなにも私は浮かれてしまえるのだ。左手付けたシンプルな結婚指輪を無意識にそっと撫でた。小さなダイヤと、アメジストで作られたそれは、私と彼を繋ぐ唯一の物。しっかりあることを確認して、ほっと息をついた。