とある国の元書記長は非現実的な現実に遭遇しました (ページ24)

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「おや……お久しぶりですね」

店に入ると、あの日と同じ人…マスターが。
私のこと覚えていたんだ。

まあでもアレはインパクト強すぎたかな。

『お久しぶりです。…コーヒー、ブラックで』

「かしこまりました」

少しして、目の前に置かれたカップ。
あの頃から少しは大人になれたのかな。

『…美味しい、です』

あの日は味わおうとして飲んでた訳じゃないから、実質今回が初めて。

マスターの淹れるコーヒーが美味しいって話、本当だったんだ。

「ありがとうございます」

優しい笑みを浮かべるマスターを見て、気づく。
この人、そういうのに慣れてる。

でも自惚れてるわけでも無さそうだし、…謙虚？
謙虚な人は好かれる。だからグルッペンもここによく来ているのかもしれない。

周りを見てもマイナスオーラを漂わせている人は一人もいない。
マスターの腕が良いのと、此処を構成している要素が磨かれているから？

·

「Aさん、でしたよね」

飲み終わって帰ろうとしたとき。
マスターに訊かれた。

『ええ、そうですが。どうかしましたか？』

逆に訊き返すと、目線を少し逸らし、何かを躊躇うような表情を見せてから再び此方を見た。

「何でもありません。またのご来店、お待ちしております」

先程より曇った笑顔。
その表情に、声が出ず、頷いて頭を下げることしか出来なかった。

店を出て、大きく息を吐く。
どうしてだろう、物凄く息苦しい。

夕日が私の影を作る。そんな当たり前の光景でさえ、何故か見るに耐えられなかった。
…疲れてるんだよ、きっと。
早く帰って、早く寝よう。

「あれ、A？」

遠くの方で幹部の……鬱先生の、声がする。
でも、声のする方を向けない。

ut「＿＿＿＿A!?」

それでも無理してそっちを向こうとして、一歩踏み出した、のに。
視界がぐるりと回り、誰かに抱き止められていた。

誰かっていうか鬱先生だね。
…こんな状況なのに、冷静でいられるなんて。

ut「疲れが溜まっとるんや、今日は休みな」

ゆるく首を振る。
重い身体を起こし、鬱先生をしっかりと見る。

『今日休んだら、明日、あの場に、立ち会えないじゃないですかっ、』

ut「明日？あの場？…何か、あるんか。」

『…すみません、帰りましょう』

“帰りましょう”って、一人じゃない前提。
無意識に頼るようになったんだ、私。