【短編集】遺書.【d!】

千羽【sho】 ページ33

Aさんへ。

この間は素敵な花束をありがとう。
まだ退院出来そうにないけど、頑張って闘病生活を乗り越えようと思います。


そうだ、Aさんは千羽鶴をご存じですか?
折り紙で折った鶴を何重に重ねて、幸福や無病息災を祈る物です。
実際、千羽は多数という意味らしいので丁度作らなくてもいいそうで。


でもなぁ。
僕、滅多にベッドから動けないから千羽くらい余裕で作れちゃいそうな気がします。
折角なんで、自分の為にも鶴を千羽丁度折ろうと思ったんです。

それを聞き付けて、沢山折り紙を持って病院に来てくれたのは本当に嬉しかった。
本当にありがとうございます。

色とりどりの折り紙。次は何色にしようか迷いながら作るのが楽しくて楽しくて。
手術の怖さも、憂鬱な時間すらも忘れることが出来て、快適な時を過ごすことが出来ました。

ところが、楽しい時間も束の間。
すぐに手術をしなければいけなくなった僕は、作るのを一旦止めて闘病に専念しました。
その後は看護師さんまで作るのを手伝ってくれて。皆が僕の完治を祈ってくれて幸せでした。


それから一ヶ月が経った今。
僕はもう少しで退院出来そうです。

鶴も残すところはあと五羽。
今日午前で作り終えて仕舞いそうなので、後の一羽は寝る前にでも作ろうと思います。
僕が作った千羽鶴は、世界一愛の籠った物になりそうです。

…多分、本当なら他の親族や友人から贈られるものだとは思いますが
それを完成する為に携わってくれた人が何人もいました。

勿論、貴女も。

今度僕が退院したら、何処か遊びにでも行きませんか?
後は鶴を部屋に飾る手伝いもしてほしいです。

何気に、貴女が病院に来ない日は少し寂しかったな…なんて思ったりもしてました。
…ごめんなさい、凄く恥ずかしい事を口走りましたね。

だからその分、沢山僕の側に居てください。
絶対ですよ？



はぁ。
貴女に会えるのも、千羽鶴が完成するのも、



どちらも待ち遠しいな。

ショッピ


急な連絡が入って駆けつけた午後。目を瞑った彼は作りかけの紫鶴を握っていた。

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