Text.9 - The accident happened suddenly ページ9
《ヘリの音してる、誰か落として》
「私ですね、はい」
ボイスチャットをオンにしているわけではないので、マスターの要望は当然私宛てである。
一面コンクリートの無機質な建物をクリアリングして、二階の窓から狙いを定める。
来る時ちらっと路地を走り抜ける敵が見えたので、おそらくマスターと鉢合わせするだろう。
「西側の敵お願いします、あのヘリ絶対落とす」
《あいよ……ちょ、あぶっ！……危ねえ、敵めっちゃ来たんだけど》
敵のアカウントIDが画面下に並ぶのを尻目に、上空のヘリコプターめがけてロケランを放つ。
……着弾し、爆発音とともに火を噴く機体。落ちたな。
「よし……さすがです」
《わかってて回したなおい！》
「マスターなら倒してくれると信じてました」
《嘘つけ》
「すみません嘘です、正直玉砕覚悟でした……」
《俺のセリフだわ！》
マスターの軽快なツッコミに含み笑いをしつつ航空支援を要請する。ヘリのお返しである。
敵の半数がリスポーンしている間に、有利な立地を確保したい。
味方の援護が主体のプレイスタイルであるため、むやみに特攻はせず、最小限のデス数でキル数が稼げるフィールドに潜伏するのだ。
建物の死角を渡り移動していると、耳元で弾が何発か跳弾する音。
さっきも同じ方向から攻撃を受けたので、例によってスナイパーだ。
「あの人いつも同じところから……芋砂ですかもう」
裏手に回りこんで、そっと窓枠にグレネードを投げ込む。キルメッセージが流れた。
《無言でグレネードは笑う》
「熱心にスコープ覗いてると反応遅れますからね」
《敵は己にありってか》
「……敵は、己に」
なんだろ、どこかで聞いたようなーーーー
ザザッと画面にノイズが走る。
近くでグレネードが爆発したので耳鳴りはしたが、ノイズが走る演出なんてあっただろうか。
「マスター？あの」
《ーー……いじょう…かーー……んかへ……おと……》
「……なに、これ」
ヘッドセットを外してジャックを挿し直すが、言葉が聞き取れない。
携帯は特におかしくなっていないのに、急に音質が悪くなった。
Wi-Fiの問題だろうか。
台の裏を覗く。コンセントにはしっかりプラグが挿さっているし、本体もいつも通りだ。
再びテレビの正面に居直る。画面のノイズは無くなっていた。
ヘッドセットは、まだ直っていない。
一応仕事用の携帯からマスターに連絡をーーーー
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作者名：桜音風湊 | 作成日時：2018年4月26日 21時
