今日は何さんですか？【川西太一】

佐藤さん ページ12

彼女は会うたびに、違う人の何かを持っていた。クラスが違うから会う機会が移動教室の時くらいで、その時の持ち物でしか判断できないんだけど、多分。

もう本来の目的なんか忘れて、俺は会うたび彼女の持ち物に目をやるようになった。



「Aさん」

「お、太一君だ」

「次そっちのクラス授業何？」

「えーっと、化学？」

「へぇ、移動なんだ。いいね」

「そうそう、実験するんだって」



その手元の教科書は “ 佐藤 ” と書いてある。

丁寧にフルネームで書いてあって、下の名前が “ A ” じゃないところからすると、彼女本人のものではないらしい。

……そういえば、たまたま聞いた話で「平凡な苗字になりたい」とかいってたよなぁ(５話・植木さん 参照)



「……今日は佐藤さん、か」

「え？なんて？」

「いや、なんでもない。実験頑張ってね」

「ありがと〜」



最近は密かに「今日の〇〇さん」というのを楽しんでいる。

……いや、そろそろ聞かないと、名前。

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