同じ【HQ短編集】

矢巾秀 ページ17

俺の幼馴染は


「しーちゃん」

「何かいる？」

「んーん、呼んだだけ」


生まれつき、体が弱い。

ついこの前も体調が急変して入院を余儀なくされた。そのくらい、弱い。

そんな彼女のお見舞いに通っているわけだが


「……元気かなぁ、堅治」

「……」


独り言のように、ポツリと呟かれた。

彼女は少し前まで、伊達工の二口と付き合っていた。試合で何回か顔合わせした事があるので、聞いた時は驚いた。

来年もきっと青城の敵になるとこの、次期主将。そう見れば嫌な相手。

でも、Aの好きな奴って見れば、思うところは変わってくる。

悔しいけど、幸せでいてほしかった。


「……じゃあ、なんで別れたんだよ」

「……それ、前も言ったじゃん」


病室のベッドで力なく笑うAは、酷く弱々しく見えて、今にも消えそうで。

そんな姿が、あの日の彼女と重なった。


『しーちゃん』

『A？お前明日から入院だろ？こんなとこで何してん

『……た』

『え？』

『……別れてきた』


あの日もAは今みたいに笑ってた。

辛かっただろうに、泣かなかった。

仲よかったのに、あんなに二口のこと好きだったのに、なんで別れたんだって聞いたら


『だって、堅治……こんな体の弱い彼女、嫌だろうから』


そう言って、また自称気味に笑った。

あいつと、どんな風な関係を築いてきたかなんて、俺にはわからない。

でもAがまだ、あいつを好きなのはわかる。


「好きなら、自分から別れんなよ」

「だって、病気持ちの彼女なんて嫌だよ」

「せめて、ちゃんと理由言えよ」

「……しーちゃん、今日は意地悪だね」


彼女はそう言って、また笑う。

違う、そんな顔させたいわけじゃないのに。

どんなに願っても、俺は二口と同じポジションに座ることはできない。

そこは、Aが好きな奴がいるべきだから。

だから、せめて幸せでいてほしかっただけなのに。どうしてこうも上手くいかないのか。


(……あぁ、俺って不器用だ)

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