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その後、咎に八雲を別館まで案内してくれと頼まれてAは八雲を連れて部屋がどこにあるかなどの説明を施した。その度に八雲はふんふんと興味深そうに目を輝かせながら相槌を打っていた。
「八雲さんのお部屋は……一番中庭に近い場所ですね。ここの図書館、中庭がたくさんあるんですよ」
「なるほど……アリガトウゴザイマス」
八雲は左目に眼帯をしているのでそれに配慮して歩く時Aは八雲の右隣を歩いていた。そんなちょっとした立ち振る舞いに八雲は感動したのか部屋に着くまでAは延々と八雲に褒めちぎられるのであった。どこか掴みどころのない人だけど、今図書館にいる人の中ではお父様の次に話しやすい。Aは若干ほっとした様子で八雲のカタコトな褒め言葉を聞いていた。
「ここです、中庭を横断すると図書館まで一瞬で着きます」
「ほう、スバラシイ! ありがとうございマス、この部屋は大事にしますデスよ」
子供のような茶目っ気を放つ八雲の姿にAはいつのまにか子供に接するような声音で語りかけてしまう。だめだ、この人の方が私よりよっぽど長生きだというのに。
案内を終えて、Aは急ぎ足で食堂へ向かった。今日の献立は……カレイの煮付けにしよう。政府から毎日支給される食材はどれも品質が良く、料理の経験があまりないAでも美味しく調理することができた。食材そのものの味を生かすためにもっと勉強をしないといけない。Aは帝國図書館唯一の女性として学ぶことがたくさんあった。
「なぁAちゃん、今日の晩飯ってなに…………うわ、煮付けやん! ええやん、今のうちに腹空かして待っとくわ」
「あ、はい……」
カレイの煮付けを料理していると、後ろから作之助がAの肩を叩いて話しかけてきた。……近い。
作之助とAは頭一つくらいの身長差。頭上から降ってくる声はいつもに増してうるさく、それでいてどこか落ち着くような雰囲気を含んでいた。
「でも、次はカレーがええなぁ」
「……そうですか」
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作者名:逆さ天然水 | 作成日時:2017年7月23日 9時