記念日 ページ2
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今日もまた一段と疲れた……
仕事が終わった時にはもう会社に残っているのは私くらいで、家に帰り着く頃には、日付は変わってしまっていた。
自分たちの住む7階の角部屋は、どこも電気が付いていない。この時間では、流石に眠ってしまったのだろう。
エレベーターで上がり、鍵を差し込んで扉を開ける。
玄関の控えめな照明がひとつ付いているだけで、奥に続く廊下も居間も、どこも真っ暗だった。
分かってはいたし仕方はないが、なんだか少し、寂しい気がする。
だって、今日は______________
風呂に入ってすぐに寝ようと思ったが、荷物を置くのと、癒しが欲しいのとで、Aがいるのであろう寝室に入った。
「…………ああ、もう、」
可愛いなぁ、と呟く代わりに出てきたのはため息だった。
二つ並んだベッドの内、私の方のベッドの上で丸くなって眠るA。
シーツに顔を埋めて、朝脱いでベッドの上に置いておいたカーディガンを抱きしめている。安心しきったように緩んだ口元に、愛されてるなぁ、なんて思うのは自惚れか……
スーツのジャケットなんかをクローゼットにかけていく間、彼女を起こしてしまわないように、最新の注意を払った。
本心を言うなら、おかえりなさい、と笑う彼女を思い切り抱きしめたかったのだが、彼女だって疲れているだろうし起こすのも申し訳ない。
……それに、寝顔だって十分すぎるくらい可愛い。
彼女の寝顔を見るだけで、1週間毎日残業休み無しでも耐えられる。
そんな気持ちの悪いことを真面目に考えつつ、軽くシャワーで風呂を済ませて、髪もろくに乾かさずベランダへ出た。
目的は単純。煙草を吸うためだ。
「…………はぁ」
吸い込んだ煙と一緒に吐き出されたのは、口に出せないような感情が混じったため息だった。
_______A、忘れてしまったんかな……
手すりに体重をかけながら、また煙草を口元に近づけ煙を吸い込んでは、ああまた肺が汚れていく、と無感想に思う。
今日はいわゆる記念日、というやつ。
もう十年近く前の丁度この日、当時学生だったのにしては随分と重い話だが、結婚を前提とした交際を始めたのだ。
『……A、俺______________』
まだ学生で、今よりいくらか奥手だった俺の、精一杯の告白文句。
今思えば、引かれたって文句は言えないような内容だった。
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背教者Ζ(プロフ) - まつりさん» お粗末さまでした! 完全自分得のほのぼのなので、そう言って頂けて嬉しいです。更新速度は遅いですが、またいつでもお立ち寄りください! (2020年4月5日 19時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
まつり - 萌え禿げます…(真顔)おふたりがお似合いすぎて可愛らしすぎて、胸が抉れるくらい悶えました!ほんとにごちそうさまです!!これからも頑張って下さい。よろしければ、また立ち寄らせて欲しいです。 (2020年4月5日 18時) (レス) id: 9861bf3927 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - めーぷる 楓の木さん» レスさえ大遅刻で申し訳ありません! 明けましておめでとうございます(今更感) 更新は停滞しますが、ちまちま頑張ります。応援ありがとうございます! (2020年3月7日 20時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
めーぷる 楓の木(プロフ) - 明けましておめでとうございます!!これからも頑張ってください! (2020年1月3日 20時) (レス) id: 7a08099120 (このIDを非表示/違反報告)
背教者Ζ(プロフ) - きのこ(em推し)さん» コメントありがとうございます! そう言ってくださるあなたが好きです((は) この作品は自分自身も好きですし、まだまだやる気もありますので、頑張らせて頂きます!! (2019年12月23日 15時) (レス) id: 03d3cf7e0f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:背教者Ζ | 作成日時:2019年6月29日 16時