硝子窓 (ページ6)

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蔵ページ6

いとこ同士になるこの四人のうちのたったひとりが、先祖代々のしきたりに従って、狩集の全てを受け継ぐ相続人に選ばれるらしい

横一列に並んだ四人に相対するかっこうで、それぞれ向かい側に中年の男女、彼ら達の親が座り、遺産相続の行方を見守っている

「その一人ってどうやって決めるのよ？」

「"孫たちに、まずひとつずつ蔵を与える"」

「蔵？」

「"理紀之助には"明聡の蔵"、ゆらには"温恭の蔵"、新音には"忠敬の蔵"、汐路には"問難の蔵"を」

『足りない』

汐路が振り返り、何のこと？と言いたげに首をかしげる

「"そして、相続の権利を得るためのお題を出す"」

車坂の一語一句を聞き逃すまいとする様に、狩集家の面々は固唾を呑んで続きを待っている

「"それぞれの蔵において、あるべきものをあるべきところへ、過不足なくせよ"」

一同は顔を見合わせたり、首をひねったりしている。当人達もその家族も、前当主が出したお題の意味を図り兼ねている様だ

「"その成果を見て、遺言執行人である車坂先生と真壁先生が協議の末、ひとりを選ぶ。四人で競い合い、力を尽くしてこれを勝ち取れ。狩集幸長"……以上です」

判定を下す役なら正解を知ってそうなよのだが、車坂と真壁からのヒントも一切無し

全員無言のまま、張り詰めた空気の漂う空間にピーヒョロロ、と長閑な鳶の鳴き声が場違いに聞こえてくる

「では、皆さんに蔵の鍵をお渡しします」

顧問税理士の真壁が、切手盆を恭しく捧げ持ってきた

正絹の帛紗の上に、古めかしい木札のついた鉄製のいかつい鍵が並んでいる。ウォード錠と呼ばれる、古いタイプの錠前だ

明聡の蔵、温恭の蔵、忠敬の蔵、問難の蔵、それぞれの蔵の名前が墨で書いてあった

相続人候補達が、理紀之助から順番に蔵の鍵を手に取っていく。最後に汐路が乱暴に鍵を掴み取った。まるで何かに腹を立てているかの様だ

『……あの、さっき言いましたよね。お金と命がかかってるって。あれ、どういう意味ですか？』

「過去、うちの遺産相続はいつもお題が出て争う形になって、その度に必ず何人も死人が出てる。きっと殺し合ったのかもね」