硝子窓 (ページ3)

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我路君の知り合いページ3

原爆ドーム前で電車を降り、平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に向かった

石碑の碑文を噛み締めながら、静かに目を閉じて手を合わせる

『……』

慰霊碑を離れ、川の向こう岸にある原爆ドームを見つめながら暫し佇む

爆心地から約百六十メートル。ヨーロッパ風の、モダンなレンガ造りの建物だった産業奨励館は一瞬にしてその姿を変えた

階段室の屋根に当たる楕円形のドームが食い散らかされた後の様に無惨な鉄骨を晒している

「久能Aさん」

突然後ろから名前を呼ばれて、振り向いた

グレイのダッフルコートの下に白いセーラー服を着たショートカットの女子学生が立っている

一体何者なのか_____

丸顔の中の賢そうな黒曜岩の双眸が、こちらをジッと見つめているでは無いか

「バイトしませんか」

『バイト？』

まさか前のタイムカプセルの時の様な______

「お金と命がかかってる。マジです」

決意を表すかの様に、きゅっと口を引き締める彼女。正体は不明だが、真剣なのは確かな様だ

『……さっき美術館の前にいましたよね』

「え」

美術館を出て歩いたとき______

視線を感じて振り向くと、グレイのダッフルコートの女の子がサッ、と目を逸らした様に見えた

『それに電車の中でも』

少し離れた席に座り、スマホを見るフリをしながらコッソリこちらの様子を伺っていたのも彼女

『慰霊碑のところでも後ろにいた』

『貴方誰ですか。どうして私の事知ってるんですか』

「私、かりあつまりしおじ」

『かりあつまりしおじ…？』

咄嗟に漢字が思い浮かばない。漢字の名前を表示したスマホの画面をビシッと突き出す

"狩集汐路"

久能も珍しい名字だが、狩集ほど耳慣れない姓では無い。狩集姓の人など全国で千人も満たないのではなかろうか

「ガロちゃんから、貴方を推薦されたの」

『…ガロちゃんって、え、我路君！？知り合い？』

「ちょっとね」

「ホントはガロちゃんが手伝ってくれる事になってたのに、ダメになっちゃって。1人だと無理だから全て放棄しようかと思ってたけど、貴方なら一緒に戦ってくれるだろうって」

『(知らないところで勝手に推薦されても)』

「だから、久能Aさん、力を貸して。じゃないと私、殺されるかもしれない」
　

『…話が見えないにも程がある』