硝子窓 (ページ17)

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忠敬の蔵ページ17

『子供って、乾く前のセメントみたいなんですって』

「は？」

『落とした物の形が、そのまま跡になって残るんですよ』

セメントに残った、例えば靴や猫の足跡、誰しも一つは見たことがあるのではないだろうか

その凹みは消せないので、最初から全部作り替えるか、精々薄くする事しか出来ない

『だから子供をスパイにしちゃダメです。一生悔やむ事になる。自分がうっかり話してしまった事を。親の足を引っ張ってしまった事を、一生悔やむんです』

「いや、そりゃわからんじゃろうが！あがな子供じゃけぇ」

『子供はバカじゃないです。自分が子供の頃、バカでしたか？』

新音はハッ、とした様に黙り込んだ

バカではなかった────と思う。大人の顔色を伺い、大人のすることを見て、幼いながらも大人達の話をしっかりと聞いていた

「……ねえ、新音の蔵、見せてよ」

沈黙を破る様に、汐路が言った

「は？何言うとんじゃ」

「私のも見せるから。情報は多い方がいいでしょ」

「……」

悪くない話だと判断した様で、新音は汐路の取引に応じた

・

・

「わ、ぎっしり……」

新音に与えられた忠敬の蔵には、ずらりと並んだ棚に茶碗や皿などの器が所狭しと並んでいた

窓から差し込む光で蔵の中は明るい。問難の蔵には無かった電球もある。器は桐箱に入っているもの、布に包んであるもの、剥き出しのまま重ねてあるものと様々で、一見すると、まるで誰かが物色した跡のようだ

「多分みな宮島焼じゃろう」

ぶち古そうじゃけも、と新音が言う