硝子窓 (ページ15)

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蔵ページ15

汐路が問難の蔵の鍵を開け、重たそうな観音開きの扉を開いた

途端に埃やカビ臭い匂いが流れ出る

汐路が、薄暗い蔵の中は先に入っていく

「あれ、なんかガラガラなんだね」

蔵の中はガランとしていて、床には枯れ草が散らばっていた。一見したところ、大したものはなさそうに見える

だが、蔵の奥に、同じ大きさの桐箱がいくつか無造作に置いてあった

「この箱、なんだろう」

言いながら、汐路が一番手前の箱に手を伸ばす。ボロボロに劣化した紐を解き、蓋を開ける

「お人形さん……」

桐箱には、古びた日本人形が入っていた。上がった頭の童女の市松人形である

『こっちもです』

別の箱を開けると着物や色や柄こそ違うが、やはり同じ日本人形だ

「全部人形……」

九体の日本人形を前に、汐路は呆然としている

随分精密な人形達で、色褪せているものの、それぞれの着物に合わせて帯や半袖や帯締めなども変えており、少しずつ顔の創りも違う

『……三体足りない』

「えっ？なんで……あ、着物の柄？暦を表してるんだ」

『はい、おそらく。これは十二ヶ月な人形なんです。松が一月、梅が二月、藤、菖蒲……』

若い月から順に名前を挙げていく

『旧暦の花暦みたいですね。でも、ここには九体しかありません』

あとの三体の花を調べようと、汐路が素早くスマホで検索する

「えっと……菊と牡丹の柄が無いっぽい？あと桜かな」

そう言った瞬間、汐路はふと表情を変えた

「桜……」

『どうしたんですか』

「私、見たことある」

思い出した。そう、あれもこの本家にいる時だった

「桜の柄の、これと同じ人形……」

八年前、汐路は八つになったばかりだと思う。桐箱に入っていた古めかしい人形が、おもちゃの着せ替え人形しか知らない汐路には珍しかった

────パパ、変な色のお人形

────触るんじゃ無い、汐路！

ただ抱っこしようとしただけなのに、いつも優しい父親から怖い顔で叱られたので汐路は驚いた

蓋の箱を閉めると、弥は悲しそうな、怒っている様ななんとも言えない表情で言った

────これは汐路のものじゃないんだ。持ち主に返さないとね

『持ち主…？』

桜の柄の日本人形は、狩集家の物ではなかったのだろうか。ここに無いと言うことは、既に持ち主の手に渡ったと言うことなのか

では、菊と牡丹の二体はどこに？