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弾んで止まるは黄檗の会話 ページ9

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 人質となっても弁当を食べる人間がいるように、人の生理現象というものは止めることはできないのだ。

 たわいない話が続く。読んだ本の話、撮った写真の話、町で見かけた綺麗な物の話、プロレスの話。童話の話。私の知る世界も、知らない世界も、彼女は教えてくれる。同時に、彼女の知らない世界を私は教えてあげる。
 あまりに自然な会話で、私は信じられなかった。さくらとこれまで一度もまともに言葉を交わしたことが無かったこと、人質に取られているという状況のこと。まるで親友と放課後、薄暗い教室の中、時間など気にせずに語り尽くしてやろうと臨んだような。それでも全てを語ることなど出来ず、次から次へと会話が生まれる、それを実感したのは久しぶりだった。目の前に倒れた青年がいなければ、私たちはまさに青春時代を生きる学生の見本のようだった。

 それでも彼女は優しくて、時々眉をハの字にして先生を見つめる。心配と、尊敬が込められたような目で。先生に救われたのだ、と彼女は言った。優等生で、良い生徒の見本であるから、救われていなくても倒れた人間は心配するのであろうが、それでも救われたという言葉が嘘だとは思えなかった。これが嘘ならとんだ大女優だ。

「あ」
 と思い出したような声。そして彼女は少し苦笑いして私を見た。恥じらいと戸惑いと申し訳の無さが少しずつ見て取れる。察してくださいと言わんばかりだったので私もどうにか察することができなくもないが、それを実行する前に彼女が言葉を濁すようにまた息を継ぐ。
「ごめん、ちょっとトイレ、行ってくる」
 尿意など抑えられるものではない。抑えたところで体に悪いだろう。授業中にトイレへ行くのを躊躇う人がいるが、生理現象は起こるもの、遠慮なく行けば良いと思う。行ってらっしゃい、と手を振ると、すぐに戻って来るね、と声が返る。
 そうして私は一人、いや、二人ぼっちになってしまった。二人のうち一人は意識を失っているのだから一人ぼっちも同然である。

□■□■□
あまり更新が出来ずに申し訳なく思います。忙しいので今は毎日更新というわけにはいかないのですがゆっくり頑張りますのでどうかもう少しお付き合いください。

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鑑 涙栖(プロフ) - luna???さん» ありがとうございます……!何と表して良いか分からないくらい嬉しいです、文面へ普通ですがとても興奮しております。更新頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。 (2019年2月17日 7時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
luna???(プロフ) - 作品とても面白くて毎日、更新されたか見に来てる位本当に好きです笑また更新待ってます! (2019年2月16日 23時) (レス) id: 654049e628 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:鑑涙栖 | 作成日時:2019年2月14日 16時

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