鏡よ鏡、口吻の色は何色? ページ19
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それだけの話。何の面白みもなく、恋愛小説のように上手くいくはずのない現実の話。どこぞの恋愛小説のように、そのあと私が先生に呼び出されることもなく、何かを糾弾されることもない。先生と同じタイミングで美術室に入り、その後はうまくクラスに擬態した。
初めて、だったはずなのに何も思い出せないそれは、そっと私の胸の中にしまう。さくらは結局、見ていたのか否かは分からないままで、けれど見ていたとして、それがさくらの口から漏れることはなく、私はとりあえず平穏に生活出来ていた。
王子様は私ではない。何もかもはっきり分からない私に唯一分かったことだ。物語の王子様になれるはずもなく、感情を抱く私は鏡になれることもなく。畢竟、私は小人Aのような存在。でも、それで良い。どこかおかしなところで悪目立ちするのは嫌だし、敵に毒林檎を食べさせるような悪女にもなりたくない。誰しもそうなのだ、白雪姫の王子様のような奇跡を起こせる人間など一握り。最初から分かっていた、王子様を望むことがどれだけ惨めであるか。何者にもなれない私たちが望むこと。それは、平穏な生活が出来れば良い。ただ、それだけ。痛む胸は、一体全体何なのだろう。
たまに、聞いてみたくなることがある。鏡よ鏡、世界で一番美しいのは……? それでも返事は返って来ない、鏡は話を聞くだけだ、鏡は答えてくれない。それこそ、何か物語的な大きな力が働かない限り。それでも、聞いてほしかった。何度目か分からないけれど、ごめんなさい。鏡さんにはもう、聞き慣れた話かもしれないね。それでも、黙って話を聞いてくれてありがとう。私の、初恋の話。叶うことのない、初恋。今でも私は、あの薄紅と、丸い眼鏡、蓬髪。それを思い出すことはあっても、口吻の感想だけは思い出せそうにない。
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鑑 涙栖(プロフ) - luna???さん» ありがとうございます……!何と表して良いか分からないくらい嬉しいです、文面へ普通ですがとても興奮しております。更新頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。 (2019年2月17日 7時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
luna???(プロフ) - 作品とても面白くて毎日、更新されたか見に来てる位本当に好きです笑また更新待ってます! (2019年2月16日 23時) (レス) id: 654049e628 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鑑涙栖 | 作成日時:2019年2月14日 16時