回想 ページ9
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「はは、分かりません。誰なんですか、それ」
漏れたのは潤いの無い悲しい笑いと素っ気ない言葉だった。少女はいつだって素っ気ない返事しか返さない。何かを真摯に考えて返事をすることができなかった。考えていないわけではない。考えたその答えを、否定されるのが怖いから。現に、今も柊の問いの答えを必死になって考えている。顔にはにこやかな笑みを貼り付けたまま。突然、脳裏に「それ」が浮かんだ。
「それ」は何やら小さな記憶のようだ。これから長い人生を生きていたとして、普通なら思い出すこともほとんど無いような、ほんの小さな。しかしそれは普通で無くなった。
教室――今、爆弾が三つほど仕掛けられている教室とそっくり同じ、いや、爆弾は仕掛けられていない見かけ上、建物としては安全な教室だ。さて次は移動教室か、と少女が腰を上げる。皆、もう目的地に着いたようで教室には誰もいない。――少女と、もう一人の少女を除いては。そのもう一人の少女が、若き才能を潰され、陰鬱な表情をした景山であった。前述した通り少女にとって景山は、「クラスメイトのすごい人」以外の何でもない存在であった。一緒に行こ、と声を掛けるのもおかしいし、それは躊躇われる。
「……行かないんですか？」
「え、あ……」
「まあ、私も行かないんですけどね」
地味な印象の割には、少女もかなりの不良生徒。真面目な良い子ではいられない。前々からこうして、嫌いな教科のときにはひっそりと参加しないことが多々あった。クラスメイトとは何の関わりも無い、私がいなくとも世界は通常通りなのだ、と少女は本を持って扉を開く。サボタージュに誘う義理も無い、と判断した少女は、そこから出て行こうとした。
「どこ、行くの？」
「図書室」
本を片手に、少女は外へ出る。夏、廊下は少しひんやりしていて気持ち良い。やはり誘えば良かったかな、と思いつつ、いや私なんかが急にお誘いしても、と自分の判断を肯定した。景山は、追いかけては来なかった。これが最初で最後の彼女との会話である。後にチャイムが鳴る。廊下に響く鐘の音を、一人寂しく聞いているのは、彼女も同じだろうか、と思ったのを、不意に思い出した。
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文字間隔はいじっていますが、やはり読みにくいかと思います。すみません。文字を小さくすると少しだけ読みやすくなるかもしれません。
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鑑 涙栖(プロフ) - ゆうさん» 閲覧、コメントありがとうございます！ ドラマ沿いにすると夢主の台詞をどう会話に突っ込んでいいか分からないのでこのような形になっています(笑)風変わりなものを書いていると思いますが、こうしてコメントをいただけるととても嬉しいです (2019年2月15日 16時) (
レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - 初めてコメントします。ドラマ沿いの小説が多いなか、少し違った視点、角度からの小説だったので新鮮でした。 (2019年2月14日 23時) (レス) id: b0c7457ca7 (このIDを非表示/違反報告)
鑑 涙栖(プロフ) - のあさん» 閲覧、コメントありがとうございます。陳腐だなんて滅相もない、その言葉だけで私は随分救われてます。ありがとうございます(笑)偏人三面相のほうも読んでくださってるんですか……！あちらも更新頑張りますのでよろしくお願いします。 (2019年2月3日 17時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
のあ - 、初めまして。本当に本を手に取って読んでいるような感覚でした。陳腐な言葉ですが、とても面白かったかったです。素敵な小説をありがとございました。偏人三面相の方も楽しみにしています！ (2019年2月3日 17時) (レス) id: 30887f6f4e (このIDを非表示/違反報告)
鑑 泪栖(プロフ) - りょうさん» 楽しんでいただけたようで幸いです！ コメントもありがとうございました！ 作中作の構成や、冒頭部分を最後にもう一度持ってくるのが好きなのでこのような構成になりました(笑) (2019年2月1日 16時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鑑涙栖 | 作成日時：2019年1月24日 21時
