活力 ページ14
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傷がついてしまいそうなほど、強く掴んだ手を離しながら、彼はふと我に返っていた。いくら友人がいないとはいえ、普通教室で教室の悪口を書くだろうか。真実を暴くような、誠実にして危険なそれを。しかし、まだ書き終えていない小説が書かれたノートを、こうして鞄に入れているということは、そういうことなのだ。彼女は教室で、ひっそりと告発文を書いていた。少女の狂気を垣間見た、柊は口から出かかったその言葉を必死で抑えつけた。
少女はそれこそ『生きてゐ』るのである。あったかもしれない希望を、一心不乱に嚙みつぶし、ギロギロとした鋭い目で、そんなおかしな教室を見ていた。その目は、その意思は、小さいながらも立派なものであった。なんだ、お前は生きてゐるじゃないか。自信を持ってそう言えるじゃないか。少女の、明日を生きる活力は――、と彼は思案する。それは、ふわふわしていて掴み所のないような、不安定な物だ。しかし、この活力無しでは彼女は死んでいるかもしれないし、自信を持って『生きてゐた』と叫べないのかもしれない。逆に言えば、この活力があるからこそ、少女はぼんやりと今日を生きるのだ。そう、それは、『この物語の完結』。完結しない限り、少女は生き続ける。
机に置かれたノートに少女が手を伸ばす。それを除けて柊はノートを手に取った。奪い合いをするかのように俊敏な動きだ。少女は目を丸くし、次にノートをひったくろうと今度は柊に手を伸ばしたが、途中で止めた。
「そもそも、私は人質でしたね。盾突くなんて無謀なことはしません」
と微笑んだ、何もかもを許すような女神の目つきで。どうぞ貰ってください、とばかりに両手を差し出す。私の目的の物――ポーチを早く寄こせと言っているようにも見えた。柊は微かに目を細めると、少女の鞄から水色のポーチをすんなりと取り出し、渡した。ノートは鞄に戻す。呆然としている少女にもう一度、待ってろと声を掛けて彼はノートの入ったそれを手に奥へ引っ込んでしまう。二度目の「待ってろ」は、暖かい何かに包まれたような優しいものだった。
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鑑 涙栖(プロフ) - ゆうさん» 閲覧、コメントありがとうございます！ ドラマ沿いにすると夢主の台詞をどう会話に突っ込んでいいか分からないのでこのような形になっています(笑)風変わりなものを書いていると思いますが、こうしてコメントをいただけるととても嬉しいです (2019年2月15日 16時) (
レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - 初めてコメントします。ドラマ沿いの小説が多いなか、少し違った視点、角度からの小説だったので新鮮でした。 (2019年2月14日 23時) (レス) id: b0c7457ca7 (このIDを非表示/違反報告)
鑑 涙栖(プロフ) - のあさん» 閲覧、コメントありがとうございます。陳腐だなんて滅相もない、その言葉だけで私は随分救われてます。ありがとうございます(笑)偏人三面相のほうも読んでくださってるんですか……！あちらも更新頑張りますのでよろしくお願いします。 (2019年2月3日 17時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
のあ - 、初めまして。本当に本を手に取って読んでいるような感覚でした。陳腐な言葉ですが、とても面白かったかったです。素敵な小説をありがとございました。偏人三面相の方も楽しみにしています！ (2019年2月3日 17時) (レス) id: 30887f6f4e (このIDを非表示/違反報告)
鑑 泪栖(プロフ) - りょうさん» 楽しんでいただけたようで幸いです！ コメントもありがとうございました！ 作中作の構成や、冒頭部分を最後にもう一度持ってくるのが好きなのでこのような構成になりました(笑) (2019年2月1日 16時) (レス) id: 3eec8abc69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鑑涙栖 | 作成日時：2019年1月24日 21時
