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人の気配がする家。それは数ヶ月ぶりで、なんだか泣き出したくなった。

母が死んでから___正確には、父が死んだ日から未だに泣いたことがない。ずっと感情は凪のように穏やかで、暴れたくなるほど誰かを憎んだり、泣き叫びたくなるほどの悲しみに心を支配されたことがなかった。

希望を抱くことをやめたのだ。何があっても受け入れることにした。例え家族が死んでしまったとしても、たった一人この家に残されても。それが世の中の常だからと受け止めて、悲しみもそこそこに何となく生きることに決めた。

だって、そんなの無駄だから。どんなに悲しんだって、どんなに苦しんだって、いなくなった人は還らない。起きたことはどうしようもないのだ。

そう自分に言い聞かせていたし、実際できていた。それなのに、あの人の傷に触れて…手が熱くなって、心臓の鼓動が早くなった。底無しの悲しみが私に襲いかかろうとしていた。


…先程、逃げるように去ってしまったけれど大丈夫だっただろうか。

二人分の夕食の支度をしながら炎柱様の顔を思い浮かべる。何処かで見たことのある顔。でも私と彼は確かに初対面のはずだ。

気付けば動かしていたはずの手が止まっていた。何故かあの人のことを考えてしまう。


「藤宮殿!」

「ッ!!…どうなさいましたか?」


いきなり背後で名を呼ばれ、驚いて思わず指を切ってしまった。包丁を置き平静を保ちながら振り返る。

すると、彼にサッと手を取られそのまま指を水に入れられてしまった。


「すまない、驚かせた挙句怪我をさせてしまった」


耳元で驚く程に冷静な声が聞こえてくる。彼の吐息が首筋にかかり、思わず息が詰まった。


「もう大丈夫です。ありがとうございます」


傷口を洗った後薬を塗る。普段ならこれくらいの傷は放っておくのだが、何故か炎柱様にじっと見られ手当てを催促されているようだったから。だから、やらずにはいられなかった。


「あの、御用は…」

「む、そういえばそうだったな!忘れてしまった!」

「では思い出したらまたお伝えください」

「そうさせてもらおう!」


去っていく後ろ姿をぼんやりと見送ってから、身体中に響く心臓の音に目を閉じる。指先の傷口が僅かに疼いた。



陸→←肆



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シルビア★姉貴 - 中村さん» もし良ければ私と鬼滅で合作しませんか?? (6月14日 16時) (レス) id: e86143b1ee (このIDを非表示/違反報告)
中村(プロフ) - NIKOさん» お読みいただきありがとうございました。感動していただけたならばとてもとても嬉しいです。 (6月11日 18時) (レス) id: 97c232aa64 (このIDを非表示/違反報告)
中村(プロフ) - Lullさん» コメントありがとうございます。沢山お褒め頂けて嬉しいです。続編もお読みいただけると幸いです。 (6月11日 18時) (レス) @page29 id: 97c232aa64 (このIDを非表示/違反報告)
NIKO - 面白過ぎですよ…涙腺崩壊させる気ですか? (6月11日 9時) (レス) @page29 id: 412fd2ba39 (このIDを非表示/違反報告)
Lull(プロフ) - 完結おめでとうございます。占ツクにはなかなか無い地の文多めのお話で雰囲気がとても好みでした……煉獄さんとの日々が丁寧に描写されていて没入がとてもしやすかったです。続編楽しみにしております。 (6月6日 20時) (レス) @page24 id: 96403d796f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:中村 | 作成日時:2023年6月4日 0時

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