【WT】貴方と紡ぐ【短編集】 (ページ35)

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『……まあ、うん』

仕方ない、と心の中でぼやきつつ、どこか気づいて貰えた嬉しさを感じてしまう自分もいた。

案の定彼女は黄色い悲鳴をあげ、瞳をきらきらと輝かせた。顔はお手本のようなにんまり笑顔で、次に何を尋ねようかわくわくしている様子だった。

『でもね、良いの。見ているだけで』

私の言葉に友人は目を丸くし、え、と短く声を漏らした。

「え、なんで？私協力するよ？ほらきんときくん、彼女が居るって噂も聞いたことないし…」

『ありがと。でも、そうじゃないんだ』

自身の左腕を右手で軽く握った。指先に塗られた薄ピンクのネイルが、かさついた肌とアンバランスに映る。

『脈が無いとか、釣り合わないとか、そういう事じゃ無いんだ。ただ、今の私は、胸を張ってきんときくんを好きって言えるような女の子じゃ無いから』

友人は何か言いたげに手を伸ばし、しかしそのまま下にゆっくり下ろしていった。私は彼女の、他者のために思い詰められる所が大好きだ。彼女の優しさでほっと息をつき、また言葉を続けられる。

『だからもし、私がきんときくんが夢中になっちゃうくらい世界一可愛い女の子になったら……その時は、ちゃんと伝えたいな、って』

彼女ははっとしたように目を見張る。そしてそのまま顔を綻ばせ、応援してるよ、と落ち着いた声で私に呟いた。それが堪らなく嬉しくて、胸に暖かな気持ちが湧き上がってくるようだった。

きんときくんは、きっと世界一かっこよくて、優しくて、誰の目から見ても太陽より眩しく映ってしまうから。
そんな君を見ていたいから、もう今のままでは居られない。

『待っててね、きんときくん』

彼がラケットを思い切り振る。空気を切りながらボールが打ち返され、すぱんと心地よい音がコート内に響いた。