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夜って、静かなんだな、だなんて小学生のような感想がぼんやりと浮かぶ。
泣く子も眠る午前0時。どうせならゆっくり出来る所で飲まないかとの提案を受け、コンビニで購入した安酒を、ベンチに座りあおっていた。つまみとして手に取ったポテトチップスは、未だ開封されていない。
きりやん先輩主導で、いくらか話をした。
互いに姉がいること、今は一人暮らしをしていること、好きな焼き鳥は皮のたれで、大学に入学してから居酒屋バイトを始めたこと。偶然で片付けるには勿体ない、けれど必然にしては物足りない共通点がいくつも見つかった。
ふと、きりやん先輩が何か思い出したような声をあげる。どうしたのかと尋ねると、彼は訥々と私に伺いをたてた。
「Aちゃん、終電だいじょう、ぶ…？」
醜態だった。飲みの場に不慣れであるが故、すっかり終電の存在を失念していた。
慌ててスマホを取り出す。冷たい電子機器が映し出す画面は、丁度10分前に終電が出発したことを知らせていた。
『終電、もう行っちゃったみたいです…』
二人の間に、しばし気まずい空気が流れる。
しかし、終わってしまったものは気にしていても仕方がない。とてつもなく遠いわけでも無いのだから、駅前まで歩いてタクシーさえ捕まえれば帰宅出来るはずである。
『すみません、タクシー捕まえて帰りますね』
ベンチから勢い良く立ち上がると、右足で一歩目を踏み出し、世界が左に傾く。そのまま足がもつれふらつき地面が近づいて……は来なかった。きりやん先輩が、私に抱擁する形で受け止めてくれていたのだ。あー、少女漫画でよくあるやつ。
そんな呑気な私をよそに、先輩はたしなめるように言った。
「Aちゃん普段お酒飲まないんでしょ？一人で帰るのは危ないって」
大丈夫ですお気遣いありがとうございます。
その言葉が出てこなかったのは、あくまで酔いが回っているからだ。
彼の力を借りてのそのそ立ち上がる。ごく自然な流れで、彼の左腕に、自身の右腕を絡める形となった。
「ちょっと、全然大丈夫じゃないじゃん。俺ん家ここから近いし、休憩してく？」
先輩の目が、ぎらりと輝いたような気がした。
いくら俗世間に疎いとはいえこれでも一大学生。
この言葉が何を意味するのか、それを理解するのに時間は要さない。
もう、それで良い気がした。
うん、いいか、やん先輩だし。というか、なんか眠いし、ふらふらするし、あー、飲み過ぎた。まあでも、まあ、うん。
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作者名：えん | 作成日時：2023年9月26日 17時
