春囲う Ⅲ (ページ15)

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雨が降る時何時も自然と後方を歩いていて、気づいたら距離が出来ていたからよく覚えていた。

「カコ、置いてかれるで？」

『ん〜…ぽんと、みんなと話したいならわたしのこと気にしなくていいんだよ…？』

透明なビニール傘を持っていたから、カコより少し背が高い私でもその顔が遮られることなくよく見えて、薄らと隈がある深海のような暗い青が私のことを写していた。

付き合いが短くてもこの短期間の間に囲井スイレンという人間がどういった人物かは何となく理解していたから、いつもよりやや遠くにいる気がする彼女の様子が変なのは薄々感じ取っていた。

「何かあったん？」

『……何かあったという訳ではないんだけど』

数回瞬きをして若干困ったような笑みを浮かべる。その視線は私から外れて後ろにいる彼らに注がれる。

『この時にしか見れない花を見てたの』

ピンクオパール、アパタイト、トパーズ…

ぽつぽつと宝石の名前を呟いて彼女の言っていた花が何なのかがわかる。
暗がりの夜道に街灯に照らされるのは今は花というより宝石に近いのかもしれない。やけど、彼女からしたら宝石と同じくらい花が綺麗なのかもしれない

「カコには私が何に見える？」

それぞれに当てはめられた鉱石の名前を聞いてカコの目には私がどのように見えているのかが気になった。
王道の宝石なのかそれとも少し離れた宝石なのか

『正しい方向に進むアイオライトかな』

その言葉を聞いて、ただ彼女が宝石の名前を述べていただけではなく意味も準えて言葉にしていたのを目の当たりにする。

カコから見て自分はそんな風に写っているのかと思えばむず痒い気持ちになる。けど、私はそんなカコが思っとるほど出来た人間ではないで

『目標に向かってまっすぐ前を歩けるぽんとがわたしにとっていつも眩しいよ』

それを言うならあんたもやろ。何なら他の同期もそれに当てはまるやろうに
視線が交じりあっているはずなのに私とカコの間には透明な板で遮られたように感じて変な気持ちになる

「……じゃあカコは自分が何に見える？」

『わたし…？』

自分が何に見えるか何て聞かれると思っていなかったからかその声色には驚いたような音色が含まれていた。
だけど数回瞬きを繰り返すと少し見開かれていた大きな目が元通りになり、唇がキュッと結ばれる

『ガラス……かな…』

人のことは立派な宝石に例えられるのに、自分のことは除け者にするんか…