取り憑かれてしまったの/em ページ1
「おや、新しい研究者の方ですか」
彼は”愉しい”と形容された表情で私を歓迎した。新たな被験者を得たばかりで(まぁすぐにミイラになってしまったが)、どうやら機嫌が良いようだった。
「ええ、よろしくねSCP-035」
「そのような形式ばったものでなく、どうか名を呼んで頂きたい」
「名前?あなたに名前があったの?」
「いいえ?ただ、無いということは幾らでも付けられるということでもありますから。そうですね…エーミールと。それを私の名としましょう」
今までの対話では聞くこともなかった、名前で呼んでほしいという要求に私を含む他の研究員たちも騒めいた。
少しの間、そう呼称するべきかどうかという議論も上がったが、他のオブジェクトに対して今は少しでも情報が欲しいということで、エーミールと呼ぶことにした。
「では、エーミール。このオブジェクトについて話を」
「貴方ではなく、私は彼女に呼んで欲しいのですが」
どうしてだか彼は私を気に入ったようで、まだ下っ端研究員の私を担当にしなければ何も話さない、と液体をごぼごぼと溢しながら言った。
同僚や上司からは「気を付けろよ」だとか「仮面にも好みなんてものがあるのかねぇ」だとか様々なことを言われたが、しばらくするとそれも全く無くなった。
「…あのオブジェクトについては、これくらいですかね」
「わかった…協力ありがとう、エーミール」
「いえ、貴女のように素敵な女性への協力は惜しみませんよ」
「お世辞が上手ね」
「本心ですから。しかし貴女は…今日は何だか気落ちしているように見えますね。何か力になれませんか?」
最近、同僚や上司たちの様子がおかしくなっている。何かに怯えたり、いきなり笑いだしたり…ストレスかと思ったが同時期に数十人の研究者に同じことが起こっているため、
何らかのオブジェクトによる精神汚染を疑い始めた。しかしそれを彼に話すには流石にどうかと思い、何も言わなかったのだ。
しかし彼は、エーミールは根気強く私の力になりたいと話し、そしてなんと愛していると告げた。
「仮面の分際で、とお思いでしょうね…しかし、私は本当に貴女を愛しているのです」
同僚も上司も、話せる人間は周りから誰もいなくなってしまった。私は寂しかった。
実は、と今起こっていることを話すと、エーミールはふむ、と考えてこう言った。
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作者名:ジャック | 作成日時:2023年6月14日 0時