トランジトリー【東海オンエア】

25 ページ26

動画の内容が頭から抜けないまま2部を迎えようとしていた。
今は考えないようにしないと、そう思ってもどうしても頭から離れない。

彼が想う相手は誰なんだろう。

耳につけたピアスを頻りに触ってしまう。
もう本番まで時間がないのに、気持ちが作れない。

こんなんじゃ、エンターテイナーとして失格だ。しっかりしろ。

必死で自分を奮い立たせるけど変わらない。
泣きたくなって立ったまま俯くと、後ろから肩に腕を回された。

「どした？顔ブサイクじゃん」

「なんかあった？」

「富永さん、佐藤さん…」

「いやめっちゃ元気か！」

いやいや、トミー失礼すぎでしょ。
カンタも本当は心配してないよね。

そんなくだらない会話をしたかったのに、出てきたのは面白くもなんともない小さい声。
それでもカンタはしっかりツっこんでくれる。これだから水溜りボンドは嫌いになれない。

感謝と謝罪の意味も込めて笑って返すと、トミーにガッシリと頬をつかまれた。そして左右に引っ張り上げられた。

「サブチャン見たんだろ、あいつらの。俺たちはお前がとしみつのこと好きなのとっくに気づいてたから言うけど、落ち込みすぎ」

「A、今すごい顔だけど写真撮る？」

彼らなりに励ましてくれているのかもしれない。そう思ってからは涙をこらえるので精一杯だった。ただ、励まし方が一般の斜め上をいっていて分かりにくい。

「ありあとぉ」

トミーにつかまれているから上手く言えなかったけど、気持ちは伝わったようで手を離してくれた。カンタは本当に写真を撮っていたようだけど。あとできっちり消してもらおう。

「始まるよ、ってどうした？」

呼びにきたさとが私たち3人を見て不思議そうな顔をしたけど、笑って誤魔化した。

歩きながら、2人には今度、食べ放題に連れていってあげようと思った。

26→←24

ラッキーカラー

あずきいろ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す