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全ての服を着させ終わると、彼女は優しく俺の背中に手を回した







「ねぇ、大貴くん」


「ん?」


「幸せ」








その柔らかい髪を撫でると香る、いつものシャンプーの香り








「俺も、幸せ」


「…うん」


「愛してる」







抱きしめる度、折れてしまうのではないかと思わせるその細い身体








こんな身体で、あんな大きな音楽を奏でているのだ








「ぁ、そうだ。山田くん」








パッと腕を離して、いつもの雰囲気に戻ってしまった彼女が言う








「あの舞台、結構人気でチケット取るの大変なんだって。山田くんに悪いことしちゃった…謝らないと」


「大丈夫だよ、話したら分かってくれたし」


「ダメ! 電話して? 私、山田くんの連絡先知らないの」








彼女にはちょっとわがままなところがあって、こうと言ったらこう! という性格なので俺は大人しく山田に電話をかけてスピーカーにした







『Aちゃん? 大学来たでしょ〜、噂になってるよ』







第一声、山田は相変わらずおちゃらけた笑い声を上げた








「ごめんね、舞台のこと…」


『いいのいいの、ほんと気にしないで』


「仲直り、したから」


『うん、それでよろしい』







まるでお父さんと娘







2人の会話は、聞いていて面白かった








『そだ、今度ダブルデートしようよ』


「ほんと? したい!」







彼女の発言に、俺は咄嗟に顔色を見た








「練習は?」


「大丈夫だよ」







あそこまで練習にこだわっていたはずなのに、彼女は今日もまっすぐ俺に会いに来た







大丈夫なのだろうか







練習時間が減ってしまったら、やっぱりいけないんじゃないか







「俺はもう大丈夫だからさ、ちゃんと練習するんだよ?」


「大丈夫、分かってるよ」







この時覚えた違和感の答えを、この時の俺はまだ知らなかった






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作者名:えつ | 作成日時:2018年10月30日 15時

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