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会いたい、そんな簡単だけど1番言えない言葉を彼に送った







返事はすぐに来て、彼は今からこちらに向かうという







いつも、来てもらってばかり







今日は、私が彼の大学に行くと伝えた








彼の大学は、高い建物や大通りや大きなショッピングモールなどが並ぶ道沿いにあった








ビルのようなその建物の雰囲気は、私の通う音大とはかなり異なっていて








この場所で彼は生活しているのだと、少しだけ彼を知れた気がして嬉しかった








近くにはオシャレなお店の1つや2つ、探さなくてもありそうなのに








彼はそんなお店に私を連れて行くことはしなかった








私が好まないと思ってくれたのか、彼の優しさが身に沁みた








入り口の前で待っていると、出入りする大勢の人が私をチラチラ見ていく








見慣れない学生に、なんだか噂を立てているようだ








突然吹いたビル風が、ガソリンの匂いを運んできた








風の吹いた方向に目をやった時、背中から私の名前を呼ぶ声が聞こえた







いつもの、その優しい声








「…大貴、くん」


「ごめん、教授に捕まってた」


「ううん、今来たとこだから」








大貴くんは何か言いたげに、頭を掻いたりしていて








それは私も同じで、彼の顔色を伺う








「ここに来る途中にね、美味しそうなパンケーキがあったの。行かない?」


「え、?」







驚いている、分かっていた








私はパンケーキとかあまり食べないし、人で賑わうオシャレなお店より静かな隠れ家的なお店の方が好きだ








流行りとか、興味ないし








でも、大貴くんが生活するこの街のことを知りたいと思った








「ね? たまにはいいでしょ?」


「Aちゃんがそれでいいならいいけど…」


「いーいーの、行こ」







一瞬迷ったけれど、今日は私から彼の手を握った







大貴くんは驚いていたけれど、その手をしっかりと握り返してくれた








「Aちゃんさ、目立つんだよ。なんか可愛い子が誰か待ってるって噂になってたよ?」


「ふふ、その子と大貴くんが手繋いで出てったら明日冷やかされちゃうね?」


「勘弁してよー」


「嬉しいくせに」







そう言って、彼の頰を押す







真っ赤なそれは、熱を持っていた







普段通りの私たちの会話







大貴くんは、ちゃんと隣に居る







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作者名:えつ | 作成日時:2018年10月30日 15時

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