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大貴くんの匂いする〜と嬉しそうに俺のパーカーに包まれて歩く彼女を連れて劇場にやってきた








「私ね〜、大好きなのこれ」








飾ってあったポスターにすぐさま駆け寄って、キラキラ目を輝かせる








無理してる








それがなんとなく、分かった








疲れているはずなのに、電話ではあんな声を聞かせたくせに








いつもの、いや、それ以上の明るくて元気な彼女を演じている








「写真撮ろ? 大貴くん」








インカメを俺の前に差し出して、くっついてくる彼女が笑う








「いい感じ、待ち受けにしよ〜」








ニヒヒ、と笑って俺の前を歩き出す








無理させてる








俺の前で、無理をさせている








「大貴くん? はーやーく」








ニコッと笑う彼女はとてつもなく可愛いけれど








ピアノの音を聴かなくたって疲れているのが丸わかりの彼女を前に、俺は戸惑った








「Aちゃん…?」


「ん?」


「やっぱ…帰ろうか」








そう言うと、彼女ははっとした顔をして俺の元に歩み寄ってきた








もっと不安そうに、俺の顔を覗き込んで顔色を確認する








「具合、悪いの?」


「違う、Aちゃんここに居たくないと思ってる…でしょ」


「どうして? どうしてそんなふうに思うの?」








今は、彼女の真っ白なワンピースが少しだけくすんで見える








俺の大きなパーカーに覆われたそれは、美しくなかった









俺が、彼女の良さを隠す








俺が、彼女を変えてしまうのがとてつもなく怖くなった







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作者名:えつ | 作成日時:2018年10月30日 15時

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