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『で、なべしょの質問に答えると、』
「Aが1番無視する……」
ふっかは厚めの唇を尖らせてブスッと拗ねる。ふはっ、と吹き出しつつもAの体は俺に向いている。
『基本的には役に入り込めばいけるかなぁ。そのために演じる役が憑依するまで台本を読むしかないし、悲しみの引き出しを増やしていくべきよ。最終的には経験だと思うし、もしなべしょがもっとお芝居上手くなりたいならアイドルを10年休んで俳優1本で頑張る、かな』
「アイドルを10年……」
『ジャニーズにもアイドルと俳優を上手く両立してる人いるから極端な話だけどね』
「お前恐ろしいこと言うんじゃねえよ……」
わざとらしく言い返してみたけれど俺にそんなことできるのか？
アイドルを10年休むのは辞めるのと同じだ。10年経って今のような活動をしている自信は一切合切ない。
『でもね、私にだって役に入り込めなくて困る時はあるよ？ 泣かなきゃいけないのに、妙にハイテンションで涙が出てこないみたいな』
「そういう時どうすんの？」
『大切な人が亡くなったと想像する、かなぁ』
「ほぉ」
突然興味が沸いてきて、俺は目を見開いた。
『本人目の前にして言うの良くないけど、ふっかが何らかの理由で突然命を落としたって想像した時はものすごく泣いたね』
「おぉい。俺を勝手に殺 すんじゃないよ……」
だって俺には分かっていた。Aが泣けない時に何を考えるかと言ったら家族以上にふっかだと思う。
『朝元気にふっかに見送られて仕事行って撮影してたら、知らない電話番号から電話かかってきて深澤さんが現場に向かう途中玉突き事故に巻き込まれてタクシーの運転手と一緒に……みたいな』
「なるほどなぁ……」
『その時は泣き叫ぶシーンだったけど褒められるレベルで泣けたよねぇ』
どの作品なのかは分からない。でも2人の想いが通じ合ってからそういう想像をしたのだろう。結果的にAの芝居の一部として世に放たれた。
芝居の話をしていたはずだけど、思わぬ所でAのふっかへの思いを知らされる。ふっかを失うことはAにとって耐え難い痛みになる。
「喜んでいいのか分かんねえ……」
当の本人は複雑そうに肩を下げているけれど。
「でもふっかは無駄に生命力高そうだから死ぬことはねえだろ」
『うん、多分ない』
「無駄にとか言うんじゃないっ」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年7月1日 21時
