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『うわ！ 懐かしっ！』
携帯を弄っていたAは突然嬉しそうに声を上げた。
『辰哉くんこれ見てよ！』
いつになくテンションが高いAは俺に画面を見せた。ショートカットが少し伸びた満面の笑みのAと、Aの腕にしがみついて離れない半泣きの俺。半泣きというよりは完全に泣きが入っている照。皆今よりも幼い。そして男達と女の子の間でテンションに落差がある。
確かあの後、結局照が1人で入れずに俺とAは2度もおばけ屋敷の中に入る羽目になったんだっけ。
「うわ。若っ」
『辰哉くんなんか可愛いね、この時』
「今も可愛いだろ？」
『キツい』
「キツいはやめなさい？」
まだ友達だったあの頃、俺がイキっていたあの頃。ちょうど10年後に付き合い始めるなど思いもしていなかったあの頃。モテるために意地でおばけ屋敷行きを決めたはいいけれど1人では絶対に入れなかった。あの時ジャンケンに負けていたら、俺は後世に語り継がれる無様な姿を晒していたかもしれない。
『また3人でおばけ屋敷行きたいねえ』
「は……？」
目の前の女は何を言っているのだろう。
「行かないよ？ 行ったとしても俺も照もAにベッタリだけど？」
『ちょっとは俺達が守る！ とか言えるようになってよ』
「無理。守って？」
『早いなあ！』
わははは、と笑うAはやはり逞しかった。若かった3人を愛おしく見つめる瞳。俺達の青い春は高校生限りで終わったと思っていたのに、大人になってからも続いている。
「本当無理なんだから。おばけとか虫とか」
『知ってる』
「それ以外は守れるから勘弁して？」
むしろ今は青の鮮やかさが増している。なにげない日常に多様な色を足してくれる存在。
『勘弁しますよー』
Aはチュッ、と唇で俺の頬に触れた。
「それでこそAよ」
でもこれは勘弁しなくていい。俺はAの唇を奪う。頬を濡らす男ではなく唇を濡らす男でありたい。
『ちょっと……！』
「赤っ」
いつになっても新鮮な反応をしてくれるAが愛おしくて仕方がない。今も昔も人に甘えられない俺が、気兼ねなく甘えられて落ち着ける場所。学生時代から変わったことは多いけれど、変わらないものも沢山ある。
「かぁいいねえ」
『もうやだ！ 見ないで……』
「なんでよ。かぁいいAもっと見たいんだけど」
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月3日 22時
