変わらないもの ページ44
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痛々しい手術跡が残る左脚のふくらはぎを丸ごと覆うサポーターを着けながら、Aは突然ハッとして顔を上げた。
『今年夏らしいことしてない……！』
「そんなことかよ！」
宿題を出し忘れたとか授業中の小テストのやり直しをしていなかったとか、大切な用事を思い出したのかと思いきや、だった。思わず俺はずっこけた。同じように照もずっこけている。考えることは一緒だ。
『そんなこととか言うな！』
「いや、くだらないとは思ったよ？」
『照まで……』
しょんぼりと眉を下げているけれど、Aは今何月だと思っているのだろう。
「思い出すのが遅すぎんだって。お前もう10月よ？ そんなもん8月の終わりか9月の初めに思い出すもんだぜ？」
『でも8月はピーターパンやってた』
「じゃあ夏らしいことしてるじゃん」
照は冷静に言い返した。ピーターパンは毎年夏に上演されている。夏といえばピーターパン。Aは今年もピーターパンをやっていたから夏らしいことはしているはずだ。
『違うのよ。スイカ割りとかプールとかさ、夏といえば、みたいなことをやれてないの』
「今年はやらなかったの？ スイカ割り」
照は頭にハテナを浮かべながら聞いた。
「ピーターパンの時ってキャストが仲良くなるためにスイカ割りやってるんじゃないの？」
どうやら経験が元になっているらしかった。恐らく照が出ていた時はスイカ割りをしたのだろう。
『今年はやってないの。花火はやったけど』
「待って。夏らしいことやってんじゃん」
花火は夏の風物詩じゃないのか。俺も照もツッコみそうになった。
『……私がやってないって言えばやってないの！』
恐ろしいほどの暴論で押し通したAはあ、と何かを思いついたらしい。
『ねえねえ、ひーくんにふっか先輩』
Aの笑顔にいたずらっ子の面影がある。俺達の呼び方もなぜか怪しい。
『部活終わったらおばけ屋敷行こうよ。遊園地の』
俺達は顔を見合わせた。おばけ屋敷。それは俺も照も2人して苦手にしている。絶叫マシーンは好きだけどおばけ屋敷だけは避けて通ってきた。
「え、行かないよ？」
『え、ビビってんの？』
対してAは俺達を煽るだけの余裕があるらしい。いくら人が作ったものとはいえ怖いものは怖い。
俺達は問答無用でAに付き合わなければならないのか。気が遠くなった。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月3日 22時
