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紙袋とAさんのバッグはふっかさんが持つ。エレベーターはボタンを押してから案外すぐにやってきて俺ら4人はすぐに乗り込んだ。
「んっ」
『ん』
そして4人以外の誰もいない箱の中で、ふっかさんと左手とAさんの右手はそこが居場所だと言わんばかりに繋がれた。
「あっ、お前なんで自分の家に帰ろうとしてんの」
2つのボタンが押されるとふっかさんは過敏に反応する。
『シャワー浴びたいもん。収録の後ちょっとだけ殺陣やってたけど汗臭い』
「真面目だなぁ。でも大丈夫、匂ってねえから。風呂は目黒と阿部ちゃん帰ってからでいいの」
『分かんないよ。うちらが知らないだけで目黒くんが犬ばりの嗅覚持ってるかもしれない』
「持ってないから。ね? 直接来て?」
ふっかさんは丸く収めた。目の前にいるのは本当にふっかさん? 彼女にデレデレしたくない、甘えられたいと公言しているふっかさん? 甘えてんじゃん。
「阿部ちゃんの言う通りだった。笑っちゃいそう」
「なんで笑うんだよ」
「だって雑誌で恋愛話してる時クールぶってるのに真逆じゃん」
「こういうことだよ。面白いものが見れるっていうのは」
『真っ赤な嘘だよね、あれ。ファンの方々に自分を大きく良く見せたい強がりだよ。見栄を張りたいの』
「そうっすよね」
『でも奢らせたくないのは本当だよ。今日みたいに辰哉くんとSnowManのために何か買った日は領収書必須だし。まあ今日は貰わなかったけど』
「じゃあ後でレシート見せて?」
『破って捨てた』
「おぉいっ! 捨てんなよぉ!」
さあ着いた、とAさんは手を離してそそくさと降りようとする。どうやらこの階にAさんの部屋があるらしい。でもふっかさんは容赦なく腕を引っ張ってエレベーターの中に戻し、閉ボタンを押した。
「降りさせねえよ」
『イケボで対抗すんな』
ふっかさんがふっかさんではないように、AさんもAさんに見えなかった。完全に心を許している。2人とも現場で気張っている分、互いのマイペースな所を見せられるらしい。
「イケボだった?」
『悔しいけどめっちゃいい声だった』
普段ふっかさんが画面を見てニヤニヤしているのはAさん関連なのかな。そう思ううちにふっかさんの部屋のある階に着き、俺達はエレベーターを降りた。2人は降りてからもずっと手を繋いでいた。
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2023年3月3日 22時