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ガチャガチャ、と鍵が開いた。ドタドタ、と足音が鳴った。
「ただいまぁ」
緩い声ともにドアが開く。私はそっと両瞼を瞑った。
「あれ、A……、寝てる？」
その優しくてくすぐったい声が、元々柔らかいのに私が寝ている時はもっと柔和な声が大好きだ。
こうやって試すのは私の意に反しているけれど、寝ているふりをしている時にしか聞けない。少しだけ私の狸寝入りに付き合ってほしい。
「ごめんなぁ……、遅くなって」
自宅警備が少なくなった証拠だ。私は辰哉くんの仕事姿、すっごく好き。
「……寿司は明日、朝にでも食うか」
いや、今から食べるよ。片付けなくていいよ。でも声を出せない。なすがままに準備したお寿司が辰哉くんの手によって冷蔵庫に仕舞われるのが耳から聞こえる。
「やっぱ1個だけ食ってもいい？ 腹減っちゃった」
バカ。つまみ食いじゃん。きっと今頃、何かしらのネタが辰哉くんの口に運ばれ、胃の中に放り込まれた。
「風呂入ってくる。それまでに起きてろよぉ？」
分かんねえか、と辰哉くんは独り言を呟きながら浴室へと向かう。物音が完全に聞こえなくなったのを確認して、私は体を起こした。
片付けられたお寿司をもう1度準備する。辰哉くんが食べたのはどうやらいくらの軍艦巻きだった。1つだけ欠けている。
稽古場での稽古が終わり、早めに帰ってこれた私は付き合って4回目の記念日のために、プレゼントとお寿司を買って待機していた。ただ待っているだけではつまらないから寝たふりをしていた。
コロナ禍が少しずつ落ち着いて、辰哉くんが自宅警備の任務を遂行する回数は減った。家に帰れば辰哉くんがうちのテレビでゲームをしている、なんてことも少なくなった。
忙しいのはいいこと。でも忙しくなると一緒にいられる時間も必然的に減る。限られた時間の中で少しでも多く共に過ごすためにお互い試行錯誤をしている。
「ふぅ……、あれ、寿司出てる」
もう1度目を瞑る。
「起きたろ？ 今起きてるだろ？」
そう言われると起きたくなくなる。
「……また寝ちゃった？」
そうだよ。また寝たふりをしているの。
「お疲れじゃん、お前」
辰哉くんは湯船で温まった手で私の髪の毛を撫でた。大きくはないけど長くて形の綺麗な指。きっと辰哉くんは知らない。私は辰哉くんに頭を撫でられるのが好きなんだって。
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作者名：あおやなぎ
| 作成日時：2023年3月27日 21時
