Words (4)【名探偵コナン】

ほろ苦い栗ようかん_4 ページ36

「何か、ついていますか？」

『え？』

「あ、…僕の顔に。」


とっさに指先で口元を軽く拭う仕草をした安室。
湯呑みに口をつけているAが、
ぼんやりと見つめてきたことに少し戸惑ったのだ。


きょとんとしたはにかむような安室の表情に、
先ほど突如抱きしめられたのは何だったんだろう、
などとAはぼんやりと考えてしまった。



『あ…、いえいえ。すみません。
やっぱり、…綺麗な所作だなぁと思って』

「ハハッ。ありがとうございます。
前にも、そう言ってくれましたよね。」

『そう言えばそうでしたね』


身なりを整えれば自ずと心も整う。
そう言った意味を含む"非思量"という言葉を、Aはあの時口にした。
安室の姿を、その所作を見て。


しかし、元を正せば、
すべての相対的な観念を捨てて考える、
"考え"とは別のやりかたで考える、
といった意味のその禅の言葉は、
むしろ、彼女に当てはまるのではないだろうかと、安室――、降谷は思った。



『あの、怪我は、…大丈夫ですか？』

「え？」

『あの事故の時の…。』


すっかり綺麗になっている安室のこめかみに目をやるA。


「あぁ。もう本当に大丈夫ですよ」

『また改めてお礼をさせてください。
あの日のことも、今日のことも…』

「いえいえ。本当に気にしないでください。
相原さんに怪我がなくて、本当に良かったので...」



はにかむようなAの顔を見ながら、
目を細め、緑茶に口をつけた降谷。



やはり、落ち着く空間だと、
降谷はそう、思った。

以前、景光にニヤリと笑われたように、
それは事実で。



色々なことが頭を支配しているものの、
ふと、肩の力が抜ける感覚を覚えるのは緑茶の香りのせいだろうか。
その暖かい温度のせいだろうか。


この、和に包まれた空間のせいだろうか。

それとも、

目の前でえも言われぬ顔で伏せ目がちに微笑んでいる彼女の――――せいだろうか。

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