あの夜の_2 ページ47
『…あ…』
目の前には、訝しげな顔をした松田の姿があった。
「何やってんだ？
なんか震えてるみてぇだけど…」
『…あ、何でも…ない、です』
見知った人物を、
“刑事”である彼を目に映したことで少し落ち着いたAは、
安堵したように柔らかい声を零した。
「…何かあったのか？
もしかして、また変な男目撃したんじゃねぇだろうな」
『あ…、いえ、違います』
「じゃあ、何やってんだ。こんなとこで」
『ちょっと…、ニュースを見て…』
「ニュース？」
まるで、職務質問でも受けているような状況に、
Aは少し萎縮しそうになったが、
その代わりとでも言うべきか、
先ほど急激に襲ってきた恐怖はほとんど消えていた。
『米花デパートの爆弾事件で、
負傷した機動隊員のこと…』
「…」
『昨日、ちょうど仕事でデパートにいて、
避難しているときに、機動隊の人たちの姿を見て…、
その中に萩原さんに似た人がいた気が、して…』
「アンタ、現場にいたのか。
…事件に度々遭遇するヤツだな」
松田は、少しマズイことを言ったと思ったのか、
気まずそうにあからさまに視線を外した。
3週間前、襲われた被害者なのだ。
不謹慎とも言える発言だったと、さすがに多少反省したのだろうか。
『…ニュースで、負傷した隊員の名前が、萩原っていう人だって、
さっき知って――』
「さっきって…」
『昨日今日と、ちょっと色々あって、
その、負傷した警官がいたってこと、…知らなくて』
「で、わざわざ萩のマンションに来たってことか」
視線を外していた松田が、
小さく首を傾けて試すように見つめてきたため、
Aは小さく動揺した。
『萩…、あ、萩原さんのこと、ですよね。
…負傷した隊員ってやっぱり萩原さんなんですか…？』
「…知ってたから来たんじゃねぇのかよ」
『萩原さんの名前は、知りません。
それに、萩原さんが刑事じゃないってことしか…、知りません。
だから、…でも、もしかしたらって思ったので』
「…へぇ」
松田の、射るような視線が何故か色々なことを見透かされているようで、
今度はAが視線を逸らした。
なぜここに来たのかと問われれば、
正直、うまく説明出来ないのだから。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年12月5日 19時
