静かな抗議_2 ページ22
『お待たせしました。』
Aは昨夜何事もなかったように、男の座るテーブルにコーヒーカップを置くも、
その動作は少し乱雑で。
そして、いつもとは違い、”ごゆっくりどうぞ”という言葉は口にせず、
男を見据えるようにして見つめた。
静かな抗議のつもりだろうか。
どこか怒ったような表情のAに、
男は何も言わず、いつものような笑みを浮かべることもしなかった。
そして、コーヒーを飲み終えると、
やはり口を開かないままAに代金を手渡す男。
「…すっ…」
『…え?』
男が小さく呟いた言葉に、Aはそれを聞き取れず、顔をしかめた。
「…す、す…すき、なんです」
『…え』
「昨日は…すみません…でした。…で、でも…僕…Aさんがす、すきで…
ここに来てるん…です」
左右に視線を彷徨わせ、絞り出すような声で紡がれた言葉に、
Aは少しだけ険しい表情を緩め、ちらっと店内の女性客に視線を向けた。
店の奥のカウンターに座る女性客には、
男の小さな声は聞こえていないようで、何やらカタカタとノートPCで作業を始めている。
『…あの、…ありがとうございます。
でも、以前お伝えしたと思いますが、プライベートでお客様と関わることは一切していません。
お店に来てくださるのは嬉しいですが、
こういうのは…、困ります。』
男からの好意に礼を伝えるも、
テンプレートのようなセリフで断りの言葉を述べるA。
しかし、それは至って本心だった。
そして、“困ります”と、わざと語気を強めて毅然とした態度で口にしたAに、
男は、昨夜に見たような苦い表情で、諦めたように黙って店を出ていった。
(…あの人、また来る…かしら…。
また…今日も付けられたり…)
嫌な考えが浮かびそうになり、頭を左右に振ると、
Aはキッチンの片付けを始めた。
時計の針は17時45分を指している。
その後しばらくしてして、残りの女性客も店を去ると、
Aは中から施錠をした。
元彼である侑斗もそうだが、
あの男も、そうだ。
あの時のように、
誰もいない店内に入ってこられては、困るのだから。
259人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:white12 | 作成日時:2019年11月14日 21時