事情 ページ21
「松田さん、これ見ました…？」
「は？何だそれ」
3日後の警視庁の捜査一課。
松田の同期である伊達とタッグを組んでいる高木が、松田のデスクにそっと近づいた。
手に持っているスマホのディスプレイを、松田に見せるようにして手渡すと、
松田は小さく口を開いた。
「…は？」
「2週間前から書き込まれていたみたいで…。
このCafé Rainって、例の殺人未遂事件で松田さんが追っていた女性の店…ですよね…？」
「何…だよ…これ…」
ドスの効いた低いトーンで松田が呟くと、
その威圧感からか、何故か高木がオドオドし始めた。
ディスプレイに映し出されていたのは、SNSの書き込み。
いくつかのアカウントから発信されていたのは、
“杯戸町Café Rainに警察みたいな人来てた”
“マスターの女の人、警察に話聞かれてたよ”
“警察が来る店ってちょっと怖い…”
“現場って、あのCaféからけっこう離れてたし目撃情報っていうのも変だよね？
ってことは、あの人、殺人未遂事件の犯人かもってこと？”
“俺、あの店行ったことあるけど、あの女の人けっこう美人だよな？
人を刺すって、あぁ見えて怖い女…”
といったような書き込みだった。
2週間前からの書き込み。
つまり、佐藤とともに松田があの店を訪れた日からだ。
警察が来ていたというのは事実だが、
Aが犯人かもしれない、などという無責任な書き込みに、
そして何の意図があるのか、それらを拡散するような面白がるアカウントに、松田は眉をひそめた。
「…それと…これ…」
松田の手の中のスマホに、すっと横から高木が手を伸ばし、ディスプレイを操作した。
同じサイトにはCafé Rainのアカウントも存在していた。
しかし、数日前から”利用停止中”となっており、閲覧は出来なくなっていた。
謂れのない悪質なコメントを防ぐためだろうか。
松田はまだガラケー利用者で、こういったSNSなどの情報には疎い。
最近では、SNSを利用した犯罪やサイバー犯罪が急増しているため、
もちろん知識は持ち合わせているし、PCなどのデバイスを使って捜査することも度々ある訳だが。
「…チッ。そういうことかよ」
ちらりと松田が視線を向けたのは、本日非番中の佐藤のデスク。
そして、高木にスマホを押し付けるように返し、
すぐに椅子を立ち上がると、そのまま捜査一課を出て行った。
「あ…ちょ、ちょっと松田さん！」
当然、どこに行くのかと聞こうとした高木の声など、
耳には入らなかった。
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作者名：white12
| 作成日時：2019年11月12日 20時
