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にこりと笑顔を作って見せるが、彼女は隣に正座したまま、ふいと視線を逸らせてしまう。
そして、長い袖で口元を隠す。


「別に。偶然隣に居たから人を呼んだだけ。律先生が無事で、よかった」


彼女に促され、食べやすい温度に冷まされた粥を口に運ぶ律。
風の指摘通り、昨日は朝食を食べてからまともな食事を口にしていない。発熱でエネルギーを消耗しているだろうから、何かエネルギーを摂取する必要があるが、そんな時に水分が多くて消化の良い粥は胃に優しくて食べやすい。


一人では、こんな優しい食事は口にできなかっただろう―――
彼女がいなければ、朝まで床に倒れていたかもしれない。


「そう言えば―――解熱鎮痛剤があるって、よく分かったね」


粥を食しながら、世間話程度に訊ねた律に対し、風はポツリ、言葉を洩らす。


「初めて律先生に会った時も、貴方は体調が悪そうで……
大量の衛生用品と解熱鎮痛薬を買い込む不審者だったから」

「ははっ。覚えてくれていたんだ……嬉しいな」


(覚え方が、随分と辛辣だけど)


苦笑いで誤魔化す律に、風は小さく言葉を続ける。
長い前髪は表情を隠し、正座した膝の上に固く握った両拳が添えられている。

怒っている様にも見えるが、その声は心なしか震えて聞こえた。



「律先生―――ウチよりずっと年上なくせに。危なっかしくて、ほっとけない」



目の前で、知り合いが倒れてしまったら
動揺もするだろう。

彼女には沢山―――心配をかけてしまったようだ。



こんな時、
こんな事を伝えるのは―――ズルいって分かっているけど
今は凄く
君の優しさに 縋りたい。



「そうだね―――俺は、
君が思うよりずっと頼りなくて、危なっかしくて、ほっとけない。だから……
風ちゃんに傍にいて欲しい」


君はまた、睥睨を向けて
部屋を出て行ってしまうだろうか。


半ば諦めだった。
そんな律に、顔を上げた風は 困ったように微笑を浮かべて言った。


「ホント。仕方ない人だな―――律さん」




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作者名:kohaku | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2024年2月14日 23時

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