├ ページ6
にこりと笑顔を作って見せるが、彼女は隣に正座したまま、ふいと視線を逸らせてしまう。
そして、長い袖で口元を隠す。
「別に。偶然隣に居たから人を呼んだだけ。律先生が無事で、よかった」
彼女に促され、食べやすい温度に冷まされた粥を口に運ぶ律。
風の指摘通り、昨日は朝食を食べてからまともな食事を口にしていない。発熱でエネルギーを消耗しているだろうから、何かエネルギーを摂取する必要があるが、そんな時に水分が多くて消化の良い粥は胃に優しくて食べやすい。
一人では、こんな優しい食事は口にできなかっただろう―――
彼女がいなければ、朝まで床に倒れていたかもしれない。
「そう言えば―――解熱鎮痛剤があるって、よく分かったね」
粥を食しながら、世間話程度に訊ねた律に対し、風はポツリ、言葉を洩らす。
「初めて律先生に会った時も、貴方は体調が悪そうで……
大量の衛生用品と解熱鎮痛薬を買い込む不審者だったから」
「ははっ。覚えてくれていたんだ……嬉しいな」
(覚え方が、随分と辛辣だけど)
苦笑いで誤魔化す律に、風は小さく言葉を続ける。
長い前髪は表情を隠し、正座した膝の上に固く握った両拳が添えられている。
怒っている様にも見えるが、その声は心なしか震えて聞こえた。
「律先生―――ウチよりずっと年上なくせに。危なっかしくて、ほっとけない」
目の前で、知り合いが倒れてしまったら
動揺もするだろう。
彼女には沢山―――心配をかけてしまったようだ。
こんな時、
こんな事を伝えるのは―――ズルいって分かっているけど
今は凄く
君の優しさに 縋りたい。
「そうだね―――俺は、
君が思うよりずっと頼りなくて、危なっかしくて、ほっとけない。だから……
風ちゃんに傍にいて欲しい」
君はまた、睥睨を向けて
部屋を出て行ってしまうだろうか。
半ば諦めだった。
そんな律に、顔を上げた風は 困ったように微笑を浮かべて言った。
「ホント。仕方ない人だな―――律さん」
・
・
・
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ