Glass 55 : 隣人 ページ10
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一刻前、不審者だと思いこんでいた
睦と共にエレベーターで1階まで降りた七汐は、玄関ホールに設置された応接セットの一つに横たわって寝る祥子を見た。
そして祥子の隣には、困った顔で肩をすくめる長身の女性が。
「待っていたよ、萩原君」
警戒と困惑に双眉を歪める七汐の隣を、睦がすっと通り過ぎる。
そのまま祥子達の元へ歩み寄ると、長身の女性に対し
「篠山先輩が潰れるなんて―――。一体何杯飲ませたんですか?」
と親気な声を掛けた。
状況が把握できていないのは、七汐だけのようで
エレベーター前に立ちすくむ七汐に、睦はいつもの抑揚のない声で振り返る。
「早く
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どうやら”彼女”が、祥子が言っていた外食相手の友人であり
飲み潰れた祥子と共にタクシーで帰って来たものの、ロビーで寝てしまった祥子を運べなくなったため、祥子のスマートフォンを借りて、酔いつぶれる前まで散々聴かされ続けた“
その“女性”は、泥酔した祥子を抱き上げる七汐に付き添い、4Dの寝室に祥子を寝かせると
ダイニングチェアーに腰掛け、七汐に温かいお茶を煎れるよう促した。
未だに状況が読めず、彼女に対する不信感と抵抗が拭えない七汐だが、同行してくれた睦が「この人は大丈夫だから」と、七汐の懐疑心を諫める。
祥子の部屋には何度も出入りしている。
当然、煎茶の場所まで把握している為、茶を煎れる事に抵抗はない。それを見越して、この女は七汐に茶を煎れる事を促したのだろうか。
煎茶を、ダイニングチェアーに座る女性とその前に座る睦に差し出し、七汐は彼女の斜向かいに腰を落とした。
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