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「―――……そうですが。誰だ、お前。祥子さんは今どこです?」
電話の主は―――
女性にしては低めで男性にしてはやや高い、中性的な声色で、
所々に擦れた声質から、酒焼けを起こしているか喫煙者の可能性が推察できた。
スピーカー越しとは言え音がやや反響して聞こえる事から、
祥子は、七汐との関係を家族などの一部を除いて公にはしていない。
(I-nfinity∞の住人には、七汐の態度から感付いている人もいるが)
そんな七汐に対する通話を、他人に委ねるとは思えない。祥子が、電話口に出る事が出来ないような、“何か”があったに違いない。
スマートフォンを握る七汐の緊張は、高まっていた。
声色を落す七汐に、電話の向こうからクスクスと低い笑い声が聞こえる。
『ふふっ。そう警戒するな……君の祥子を、取って喰おうなんて考えていない。
心配なら迎えに来い。While I don't change my mind―――.」
―――
「どういう事だ」
『
「お前―――ッ!」
挑発的な電話の相手に、七汐は声を荒立てる。
睦は、七汐の肩を押して鎮めた。
睥睨を向ける七汐に、睦は冷静に首を横に振る。
“挑発に乗るな―――”と、言う事か。
「直ぐに行く。場所は?」
怒りを押し殺した七汐の声に、電話の主は不敵に喉を鳴らす。
『ククッ……若いね。
君が到着するまで、無防備な祥子の顔を眺めながら待っていてやろう。
―――場所は……』
「―――……は?」
指定された“場所”に、七汐は己の理解が追い付かず、
双眸を歪めて睦に視線を送った。
睦は、片手で頭を抱えながら特大の溜息を落した後、慇懃に首を横に振る。
「篠山先輩を、迎えに行きましょう。僕も、同行します……」
二人は部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。
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