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「はい、おしまい」
抑えていた身体を解放すると、後からじわじわとやって来る恐怖と痛みで
男児の表情が見る見るうちに歪んでいく。
目まぐるしく変化する素直なその表情に、医療スタッフはクスクスと微笑みを浮かべ、
母親は愛しい我が子を抱きしめながら「しょう君、すごいね！おちゅうしゃがんばったね!!」と褒め称えた。
母親からの賛辞に、歪みかけた彼の表情は、すぐさま得意気に変わっていく。
「えーオレ、ぜんぜんいたくなかったし」
と言いながら、母親の腕を掴んで大きく振り、母親からの承認と無性の愛を強請るのだ。
小児科看護師が予防接種後の注意点を母親に説明する間
七汐は、
膝を折り、視線を合わせ、笑顔を向ける七汐に
「オレもほしい、バイク。あかくてカッコいいヤツ」
「あはは！良いね、大歓迎だ。
その為には大きくなって、注射にも負けない強い身体を作らなきゃな」
「オレ。ちゅうしゃなんか、こわくねぇし」
「そうだな……。
『どの口が言うか―――』と呆れる程に微笑ましい、切り替えの早さも 子供の特権だろう。
彼等は実に素直で 可愛らしい。
ご機嫌にひらひらと手を振りながら、母親の手を引き診察室を出ていく彼に手を振り返しながら見送った後、
診察介助を行っていた小児科看護師が「助かった〜」と安堵を零した。
日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールでは、生後2か月の乳児期から12歳の学童期までに集中して予防接種を行う。
これにより、我が国の各疾患重症化率が飛躍的に低下している為、必要な処置だ。
だが、痛みを伴う予防接種は、子供に理解を求めるのが困難だ。
中にはじっとしている子もいるが、身体が大きくなった幼児期以降では、それを制する親も大労を伴う。
勘の良い子供を、病院に連れてくるまでも一苦労だと聞く。
そして、暴れる子供に安全かつ素早く手技を行う医療従事者にも、高い技術やスマートな連携術が問われるだろう。
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