Glass 63 :家族 ページ40
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「
「え、いや、悪い。じゃなくて……」
目を見開く翔とは対照的に、落ち着いた様子で再びテーブルの珈琲に手を伸ばす七汐。
その温度差が、余計に翔の焦燥を煽った。
「ちょっと待て、母さん達はどこまで知ってんの⁈」
「まだ言ってない、俺も聴いたのは今月14日だし。学生時代の母性看護学の教科書を引っ張り出して調べても、未だ安定期入ってないから、報告はその辺落ち着いてからかな。
フライングで言ったの翔だけだから、まだ秘密で」
落ち着いて見えるが、誰よりも喜んでいるのは七汐だろう。
祥子から逆プロポーズを貰った事も(その前に七汐がプロポーズしているけれど)、気持ちの上では世の中の全員にこの幸せを言いふらしたいくらいだ。
だが、センシティブな時期でもある為、祥子との相談もなしに勝手な行動は慎むべき―――。
これから先、大切な事は、彼女と相談をして決めていくべきだと、弁えている。
翔は―――無暗に言いふらしたり揶揄うような奴ではない。だから、彼だけには
溢れるこの喜びを、共有したかった。
「そういや、学生時代はそういう勉強もしてたんだっけ?最近小児科応援も多いって言ってたな。
だからか―――……
「ははっ!確かに昔、赤ちゃんを模した人形を使って沐浴実習とかやってたな。
懐かしーけど、もう覚えてないや」
「でもお前、学校も行くんだろ?色々とほら、大丈夫なのかよ」
彼の言う通り。祥子が妊娠したとなれば、生活や環境は大きく変わる。
諸手続きも急ぐ上に、彼女の身体に負担はかけられない。
受験準備の他に七汐のするべきは、事の他に多いのだ。
だがそれも、全て覚悟の事。
学生時代も、産婦人科を希望するつもりはなかった為
勉強は専ら国家試験対策で、母性看護学などさわりだけしか記憶にない。
口だけで言う“責任”などに何の重みもない―――父となるならば、七汐自身も知識を身に着け、
心も環境も準備をしなければいけないだろう。
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