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七汐が受け取ったチョコレートの山を見た澪は、”病棟の誰々は七汐に色目を使っていた”とか”事務の何々は男性スタッフと話すときだけ女を出す”だとか……彼女がいるのだから他のチョコを受け取るなと叱られる始末。
彼女に嫌な思いをさせたのだから七汐にも非がある事は認めるが、
正直、職場の同僚の悪口をこうも聞かされては 良い気がしない。
可愛いヤキモチだと喜んで、”本命は、君だけだ―――”とでも言えばよかったのだろうか。
当時の冷めきった交際状態では、”だったら、浮気なんてしてないで 俺だけ見ててよ―――”等と反論する気力も沸かなかった。
ひたすら「ごめん」と謝り流し、彼女の気が治まるのを待っていた事を思い出す。
「すみません―――これは、職場の方からで。けしてそう言うのではないんです」
祥子にも、嫌な気をさせただろうか。
1年前の澪とは違い、祥子には勘違いされては困る。
誤解を解こうと必死な七汐に、祥子は一瞬驚いたように目を見開き
そして くすくすと笑い始めた。
「どうして“すみません”なの?職場の人からなんやろ、分ってるって!」
「え―――っと」
祥子は、戸惑う七汐の背中を覗き込むようにクルリと回ると 楽し気に声を弾ませる。
「誰から貰ったか、きちんと名前控えときや!お返しの時、手伝ってあげるから、チョコうちにも少し分けてな」
これが、大人の余裕―――というものだろうか。
七汐の心配は杞憂に終わり、それどころか貰ったお菓子の消費と、頭を悩ませていた3月のお返しを手伝ってもらえるという助力までも得る事が出来た。
じーんと、祥子の有難みを噛み締める七汐に 彼女は両手を慌てた様子で胸前で振る。
「あ!ちゃうんよ⁈ヤキモチも妬かんような可愛げない女やなんて、思わんといてな!
そりゃ、七汐君がモテるんは心配やけど、職場で大事にされているんは彼女としても嬉しいんやから」
―――本当に、この人は……
「大好きなのは、貴女だけです」
仕事の疲れも悩みも吹き飛ぶくらいの癒しを受け
自分の台詞だとは思えないような言葉が 自然と溢れ出る。
慌てていたかと思うと、今度は頬を真っ赤に染めて戸惑いを見せる。
INFINITY∞では魅せない、豊かな表情のどれもが 七汐の心を掴んで離さない。
こんなの
好きすぎて―――困る。
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