Glass 61 ：誤解 ページ35
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バイクのヘッドライトが、白い壁を照らす。
スモッグの入ったフルフェイスヘルメットを外せば、反射したライトの眩しさに一瞬視線を逸らせた。
タンクの熱が恋しく感じる程の寒空に息を凍らせながら、エンジンの音が静まった駐輪場で
七汐はバイクから足を降ろした。
「流石にこれは、いい気はしないだろうな」
背中で大きく膨れたリュックサックに、見た目ほどの重量はない。
気の重さから肩を沈ませながら、I-nfinity∞の二重扉を抜けた。
出来れば部屋に入るまでは、誰とも会いたくないと思う日に限って
エントランスでニアミスするなんて。
無視する訳にもいかない。湧き上がる溜息を隠しながら、七汐は彼女に声を掛けた。
「こんばんは、祥子さん」
「おかえり、七汐君」
オレンジ色のフロアランプが、笑顔の彼女を優しく照らす。
祥子の表情がハッキリと分かるくらいの明度なのだから、当然彼女も、七汐の背中の荷物に気付くはず。
案の定「凄い荷物ね」と、祥子は苦笑いを零した。
この展開―――七汐には覚えがある。
丁度１年前の今日、2月14日
職場の
寮のエントランスで当時交際していた澪と鉢合わせし、散々な思いをした苦い思い出だ。
バレンタインにチョコレートを貰ったと言っても、その大半は”救急センター女性看護師一同”等と言った連名で渡された
その後の仕事のしやすさ(人間関係)を考えれば、断る理由もないだろう。
それに、この年にもなればチョコレートを貰った数などにいちいち反応しなくなるものだ。
だというのに―――
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