* ページ33
実弟の事とはいえ、彼の行動力には昔から目を見張るものがあった。
その日は病院勤務の日であったため、直接見る事は出来なかったが
事が起きたのはタイミングよく客入りの少ない
店に迷惑の掛からない時間帯や、厨房勤務の“彼女”がフロアに出ていた事も含めると
七汐以外にも“協力者”がINFINITY∞に居たのだろう。
翔が連絡先を知っていてかつ“こういう事”に協力してくれそうな人物など、今日のシフト表を再確認しなくても予想がつく。
そんな事を考えながら、祥子の部屋で、用意してくれた夕飯の鍋を手皿にすくう七汐に
彼女は楽しそうに昼間の一部始終を語ってくれた。
「今頃二人はデートかなぁ!若いって良いわねぇ」
「若いって……姫子さんと祥子さんって、1歳しか変わらなかった気が―――」
「黙らっしゃい!」
「すみません」
どうやら彼女の言う“若い”は、年齢の話ではないようだ。
祥子に一喝され、七汐は黙って最後の
「姫ちゃん、桐島さんの件でずっと気を病んでいたから。いい気分転換になればいいけど」
「―――……」
「ねぇ!萩原君、聴いてる?」
(さっきは黙れと言ったくせに……)
七汐は口を尖らせながら、言われるままに相槌を返す。
「“気分転換”で終わらせるようじゃ、ヘタレ過ぎて笑うけどな」
「ヘタレってねぇ……今日の翔君、カッコ良かったんやから!落ち込む姫ちゃんに気付いて、さりげなくデートに誘うあたり、もう少女漫画の王子様みたいで。
若葉ちゃんなんか、小説書けるって張り切っていたわよ」
(女性の弱っているタイミングに付け入るなんてしたたかさ、寧ろ悪役王子だろ―――
人の事、言えないけど。)
「ごちそうさまでした」
「え、ちょっと!」
両手を合わせて食後のお祈りをし、食器を持って早々と席を立つ七汐の背中に、
祥子は不満気な声を洩らした。
残りの夕飯を食べ終わると、美しい所作で食後のお祈りを行い、キッチンに立つ七汐の隣に並ぶ。
「何で急に不機嫌になるのよ」
「じゃぁどうしてアイツは“翔君”で、俺は“萩原君”なんですか」
「あ……ヤキモチ?」
その一言に、七汐は隠していた不機嫌を露わとする。
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ