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実弟の事とはいえ、彼の行動力には昔から目を見張るものがあった。

その日は病院勤務の日であったため、直接見る事は出来なかったが
事が起きたのはタイミングよく客入りの少ない平日(今日)の夕方で、休勤日だった翔は大胆にもINFINITY∞勤務中の“彼女”に声をかけ、白昼堂々 仕事上がり(今夜)のデートを取り付けたという。

店に迷惑の掛からない時間帯や、厨房勤務の“彼女”がフロアに出ていた事も含めると
七汐以外にも“協力者”がINFINITY∞に居たのだろう。

翔が連絡先を知っていてかつ“こういう事”に協力してくれそうな人物など、今日のシフト表を再確認しなくても予想がつく。


そんな事を考えながら、祥子の部屋で、用意してくれた夕飯の鍋を手皿にすくう七汐に
彼女は楽しそうに昼間の一部始終を語ってくれた。


「今頃二人はデートかなぁ!若いって良いわねぇ」

「若いって……姫子さんと祥子さんって、1歳しか変わらなかった気が―――」

「黙らっしゃい!」

「すみません」


どうやら彼女の言う“若い”は、年齢の話ではないようだ。
祥子に一喝され、七汐は黙って最後の 白菜(一口)を口に入れた。


「姫ちゃん、桐島さんの件でずっと気を病んでいたから。いい気分転換になればいいけど」

「―――……」

「ねぇ!萩原君、聴いてる?」


(さっきは黙れと言ったくせに……)
七汐は口を尖らせながら、言われるままに相槌を返す。


「“気分転換”で終わらせるようじゃ、ヘタレ過ぎて笑うけどな」

「ヘタレってねぇ……今日の翔君、カッコ良かったんやから!落ち込む姫ちゃんに気付いて、さりげなくデートに誘うあたり、もう少女漫画の王子様みたいで。
若葉ちゃんなんか、小説書けるって張り切っていたわよ」



(女性の弱っているタイミングに付け入るなんてしたたかさ、寧ろ悪役王子だろ―――
 人の事、言えないけど。)



「ごちそうさまでした」

「え、ちょっと!」


両手を合わせて食後のお祈りをし、食器を持って早々と席を立つ七汐の背中に、
祥子は不満気な声を洩らした。

残りの夕飯を食べ終わると、美しい所作で食後のお祈りを行い、キッチンに立つ七汐の隣に並ぶ。


「何で急に不機嫌になるのよ」

「じゃぁどうしてアイツは“翔君”で、俺は“萩原君”なんですか」

「あ……ヤキモチ?」


その一言に、七汐は隠していた不機嫌を露わとする。

*→←Glass 60 :味方



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作者名:kohaku | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年11月12日 22時

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