Glass 59 :卒業 ページ26
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I-nfinity∞の5階にある“ブレストルーム”で開催される会議は、定期的に実施される。
実施日と議題は大抵、入居者全員が参加するグループアプリケーションにて数日前までに発信され、全員が意見を述べやすい雰囲気を重視する為、ちょっとしたお茶会の雰囲気である事が多い。
だが、この日のブレスト会議は、いつもとは雰囲気が異なっていた。
会議の場に居ながらも“傍観者”でいる事が多い三笠夫妻がテーブルに付き、神妙な面持ちで参加者達を見渡した。
口ぶりが重い真司の隣で、真矢は寂しそうに下を向いている。
きっと、大切な報告があるのだろう―――
夫妻の様子を機微に感じ取った参加者も、緊張を滲ませる異様な空気の中、
じっとその発言を待っていた。
「皆に―――大切な報告がある。実は……」
漸く口を開いたのとほぼ同時だったろうか
「あああ、もう。辛気臭いの止めましょうぜ!真司さん」
気怠そうで気の抜けた洋平のいつもの声が 空気を一蹴した。
参加者たちの冷めた視線が洋平に集まる。
隣に座っていた立花は「空気を読め」とばかりに睥睨を向けた。今にも手が出そうな立花を、祥子が抑えるが、彼女達の視線も気にする事なく、洋平は真司に変わって場の空気を乗っ取り、我が物顔だ。
今回の“議題”に凡その予想がついていた七汐は、円卓に並ぶ参加者たちの表情を一通り確認すると、
最後に一矢へ視線を送った。
状況が呑み込めずどこか不安げな他参加者とは違い、涼しい表情を崩さない一矢の様子から
議題が“例”の件である事の確信を得る。
この場で例の件を知るメンバーは、“当事者”を除けば七汐と一矢、そして三笠夫妻だけだと聞いていたからだ。
「何か、知っていそうですね―――先輩」
傍観していた七汐に声を掛けてきたのは、隣に座る睦だ。
「“場”を、戻さなくていいんですか?」という睦を、「それは俺の役目じゃないよ」とあしらった。
例えファシリテーターが必要だったとしても、その役目は七汐ではない。
偶然耳にしてしまい事情を知っているだけで、本来七汐も”今日聴かされる側“の人間であるはずだ。
神妙な“場”を取られてしまい、どう話を続けるべきかと戸惑う真司に変わり、洋平はめメンバーに責められながらも、いつもの明るい口調で“本題”を告げた。
「ほらほら、こんなんじゃいつまでたっても“次期INFINITY∞シェフ”が決まらないだろうが」
「―――……次の、シェフ?」
「え、どういう事?」
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