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「ごちそうさまでした」
早々に年越しそばを食べ終えた七汐は、顔の前で両手を合わせる。
と。祥子は慌てて箸を持ち、お椀に手を伸ばした。
「え、早い!」
「祥子さんが遅いんです」
「だって―――萩原君からのプレゼント、にやけてしまうやん」
「普通のプレゼントじゃないですから。にやけてくれて良かったです」
気を抜けば緩んでしまう口元と、浮足立った心内を祥子に悟られない様に
食べ終えたばかりの食器を持って立ち上がり 七汐はキッチンに向かった。
「あ、待って―――」
「祥子さんはゆっくり食べてていいよ―――デカフェの用意してるから」
「そう言えば、明日のお節もうちが作ったから、お願い聴いてもらえるん?」
急いでそばを食べ終えた祥子は、空いた器を持ってキッチンに並んだ。
そんな彼女に、七汐は意地悪く視線を流す。
「……祥子さん、くまのぬいぐるみと遊んでいたから
結局蕎麦茹でたのも天婦羅揚げたのも俺なのに?」
嬉しそうにくまと時計を眺める祥子をキッチンから見守りながら、夕飯の仕上げを行ったのは七汐だ。
こうも堂々と“作った”宣言されると違和感がある。
「ざっ、材料用意したん うちやし⁈」
正鵠を射られてか、言葉を詰まらせながらも必死に弁明を述べる。
まぁ。料理は下準備が9割とも言われている。
七汐が帰るまでに材料を茹でて揚げるだけに整えてくれたのは紛れもなく祥子であり、
七汐は既に先程、生涯かけての“お願い”を彼女に聞き入れてもらっているのだ。
彼女のどんな“お願い”だって甘んじて受けるつもりだ。
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