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「なんか、少女漫画みたい〜」

(いや。全然違うし)


ふふっと笑みを浮かべながら左手首の腕時計を眺める祥子に、
七汐は「蕎麦伸びますよ」と食事の続きを促した。


「夜景の綺麗なレストランでプロポーズとかベタな事は、“元婚約者”がやってるだろうから……」

「え、何……見てたん?萩原君」


(―――……やはりな。プライド高そうなあの男のしそうな事だ)



驚いたように双眸を丸くする祥子に、七汐はばつが悪そうに視線を逸らせる。


祥子の言う“少女漫画”に出てくる“彼氏役”なら。
きっともっとロマンティックな場所で、
真っ赤な薔薇と指輪を渡しながら、永遠の愛を囁くのだろう―――



間違っても、玄関先で大きなクマのぬいぐるみを渡しながら“プロポーズ”はしないはずだ。
そしてその後、一緒に年越し蕎麦をすする事もないだろう。



一世一代のプロポーズが、我ながら何とも間抜けなシチュエーションになってしまったとの落ち込みはあるが、
どんなに恰好を付けたところで 彼女の元婚約者には敵わないだろうとの僻みが先行した。

だったら真逆で勝負してやろうと考えた結果が、コレだった。


一度貰ったであろう“婚約指輪”も、元婚約者(ヤツ)のと比べられるのは癪に障る。

そもそも、祥子はあまりアクセサリーを身に着けないし 指輪をはめている所も見た事がない。
だから、婚約指輪(エンゲージリング)の代わりに、実用性のある“婚約時計( エンゲージウォッチ)”を選んだ。



シンプルで品があり―――祥子に似合うだろう。
これから同じ“時”を隣で歩いて欲しいと願いを込めた事までは、恥ずかしくて言えなかったが。



流石にあれだけハッキリ伝えて彼女の退路を絶てば、理解してもらえたようで
プロポーズを理解した祥子が顔を真っ赤に染めながら「はい」と答えてくれた時は
嬉しさよりも安堵の気持ちが勝った。

ここで断られるなんて想定もしていなかったが、
人生の一番大きなターニングポイントであった事に変わりはない。

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作者名:kohaku | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年11月12日 22時

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