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帰宅後、着替え等を済ませると、七汐は緊張した面持ちで4-Dの玄関前に立つ。
吐く息が、七汐の口元を白く曇らせた。
大晦日だと言うのにI-nfinityの廊下はいつもよりも静けさに包まれている。
この間は、週1回6時間以上のcafe業務は免除される事となり、急遽この連休を利用して実家に帰る入居者も多かった。
七汐は31日まで本業の勤務予定が入っていた為、実家には年明けのどこかで顔を出そうと粗放的に考えている。
年末年始も関係なく、病棟や救急外来は稼働している。就職してからは職場で年越しする事も当たり前となっており、今更家族で正月を過ごそうなどとは考えてもいなかった。
INFINITYのシフト調整の為に本業の勤務日をリーダーである彼女に伝えた際、祥子から“年越しを共に過ごそう”と誘いを受けた時は 正直驚いた。
それを、年越し蕎麦を作る
可愛い過ぎる彼女の行動に 断る理由など七汐にはない。
だから―――
この日、覚悟を決めようと思った。
こんな時、だけど……
こんな時、だからこそ―――
玄関前のインターホンを鳴らす七汐が、中々部屋に入ってこない事を不審に思ったのか
祥子が玄関先まで迎えに出る。
「寒いやろう⁈ 連絡貰ってるんやから、入ってきたらええのに」
そう言って玄関扉を開く祥子の視界を塞ぐように、大きなクマのぬいぐるみがぐいっと迫る。
「えっ、えっ⁈」
突然の事に戸惑う彼女にぬいぐるみを押し付け、それごと部屋に押し込むと、
七汐は玄関扉の鍵を閉めた。
「萩原君?」
「……“お帰り”を言って?祥子さん」
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