* ページ15
*
「あら大変―――忘れ物をしたみたい」
マンションの駐車場で今後についての相談を行っていると、
後方で真矢が思い出したように声を上げる。
車椅子のハンドリムを操作しI-nfinity∞の中に戻る真矢に、真依は「一緒に行きますよ」と声を掛けたが、
彼女は、大丈夫だからと介助を断り、一人でエレベーターに乗り込んだ。
到着した3階でエレベーターを降りようとした時、
「あっ―――!」
「お手伝いさせて下さい、真矢さん」
上半身のバランスを崩す真矢を支えるように、隣から腕が伸びる。
顔を上げた真矢は、腰をかがめて微笑む男の顔を見ると、ほっと笑みを浮かべた。
「ありがとう―――萩原君」
心配そうにエレベーターを見送る真依に視線を送り、七汐は階段を駆け上がっていた。
何となく―――彼女の向かいそうな場所が 想像できたから。
七汐はエレベーターに乗り込むと、ハンドグリップを握り
慣れた手つきで 車椅子のキャスターを浮かせた。
真矢の姿勢を整え、向かった先は大町の私物が残った3-Dの部屋。
桜のキーホルダーの付いたカードケースをキーロックに翳し玄関扉を開けると、カーテンが閉まったままの薄暗い廊下をじっと見つめた。
「―――……」
「―――……」
乾いた冬の空気が、周囲の音を抱き込み
辺りは嫌に静かに聞こえた。
この無言の対話こそが、真矢が取りに戻った“忘れ物”なのだろう―――
暫くの後、真矢は徐に口を開いた。
「貴女は
私たちは、貴方の願いを 叶える事が出来たかしら―――」
そう言えば―――
I-nfinity∞の住人は皆、入居の際に面接で“叶えたい夢”をオーナーである三笠夫妻に伝えている。
この若さで闘病生活を余儀なくされ、この世を去ったINFINITY初期メンバーでもある大町の“叶えたい夢”とは、一体何だったのだろうか……。
(二人の会話に水を差すような事は、無粋だろう―――)
主を失った3-Dの部屋をじっと見つめる真矢の
車椅子のブレーキを掛けると、七汐はそっと その場を後にした。
・
・
・
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ