Glass 56 :涙雨 ページ13
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映画やドラマなんかでは、こういう時は決まって曇り空か大雨で
主人公の 哀情や憂いに乱れ動く心情を表現するかのように
雷光と降り続く雨が そっと頬を濡らすのだろう―――。
晴れだけど。
「晴天ですね……」
「そうやね―――」
片手を額に翳し、双眸を細めながら空を見上げる七汐の隣で、
深黒の礼服に身を包んだ祥子も 並んで空を見上げる。
「葬儀の日に降る雨は“涙雨”と呼ばれて、“故人があの世で涙を流している”と言われるんやけど……
この様子じゃ、あの人は笑っている様ね」
―――こんなんじゃ、泣くに泣けないじゃない。
そう言うと、寂し気に苦笑を零した。
一昨日前
大町櫻が 緩和病棟の病室で、
35歳という若さで生涯の幕を閉じたのだ……。
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あの日―――
七汐の勤務中に救急搬送された大町は一般病棟に入院となったが、直ぐに緩和ケア病棟へ転棟した。
本人と実両親の関係が良くないという情報は得ていたが、それでも最期が近い事を家族に伝えなくても良いのかという主治医の意見を、大町は強い口調で一蹴したという。
彼女自身の強い希望で両親には一切連絡しない事となった。
代わりに、後見人として三笠夫婦と終末期ケア専門士である睦が同席して、
そこでは、
迷惑をかけたくないと大町が否定。
一般病棟より融通の利きやすい緩和ケア病棟への転科で、話がまとまった様だ。
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