Glass 52 ：嫉妬 ページ47
・
まるでプログラミングされた動きを辿る 精巧なプラスチック
正確なハンドリングとアクセルワークで、
一台のバイクがカラーパイロンの間を蝶のように舞う。
カウルの下方がアスファルトに擦れる程バンクさせたかと思うと、
次のパイロンで二輪のタイヤが最小円を華麗に描いた。
短い直線で、ここぞとばかりにアクセルを煽り加速した後は、
緩やかなコーナーに車体を傾け、マッドブラックのリッターバイクがゴールに吸い込まれた。
『ゼッケン28番。ただいまのタイム、１分45秒3―――』
見慣れないバイクが叩き出した好タイムに、フェンスの向こうから感嘆の声が漏れた。
地方で行われる小規模会場の大会では、出場者が限られるため、大抵が顔見知りであることが多い。
見事なライディングテクニックを見せる選手なら、尚更に人々の記憶に残っているだろう。
あんなにも”精確”にコースを描けるライダーは、居ただろうか。
ゴールラインからバイクを移動させ、待機エリアで外されたヘルメットの中身を見て、
口角の弛んだ回りの選手達は
戻ってきた黒いバイクの主の 肩を叩きながら
興奮気味に声を掛けた。
「なんだよ、バイク変えたのか？“翔”」
「今日はやけに丁寧な走りだったじゃねぇか！まるで別人―――……」
「別人、です。俺は、“翔”じゃない」
「っえ？」
声も雰囲気も、彼等の知る“いつもの翔”とは違ったその男は、
バイクグローブを装着したままの手でコースのスタートラインを指差した。
「
男の示す先を、視線で追うと
軽い電子音が、スタートまでのカウントダウンを刻む……
ブォン……！！！
荒々しいエンジン音を轟かせ、ロケットのようにスタート地点を飛び出した赤のリッターバイクは、
シルバーのエンジンガードがアスファルトを擦るか否かの際どいバンクを見せ、
最初のコーナーを瞬く間に通過した。
フェンス向こうの
スタート順待ちでエンジンを温めていた選手や、競技を終え相棒の点検を行っていた選手までも、
コースを疾走する
緩急あるアクセルワークに粘りのあるコーナリング、
パトロンを際どく攻めるライン取り……
荒々しさの中にしなやかさと安定感があり、
そのパフォーマンスは、見る者の呼吸を忘れさせる程に魅了した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
